「(子供は)大人よりも遥かに感受性が豊かで、めっちゃシビア」(高野さん)
民放ドラマでは「夢は必ず叶う」は嘘に感じてしまう
子供向けのドラマだからこそ、高野は「綺麗事が本気で言える」と語る。
「日本も世界全体もなんとなく絶望的な雰囲気だから、これは自分の感覚ですけど、『夢は必ず叶う』とか民放のゴールデン帯のドラマでは口が裂けても言えないんですよ。視聴者の多くは元気になるものを見たいはずなんです。だから本来なら『夢は叶う』とか『恋は必ず実る』とか言ってほしいじゃないですか。でも、言われたとしても、それを信じられるほど世の中は甘くない。一気に嘘くさく感じちゃうと思うんですよ。
見たいのは明るいものなのに、本当に明るいものを見せられると嘘に感じてしまう。これって今後もテレビドラマが戦っていかなきゃいけないことだと思っているんですけど、子供にはそんなことを言う必要はなくて、『未来はあるよ』『世界は変えられるよ』って言える。というか、言わなきゃダメだと思うし。子供のときに見て、それを本気で信じて世界を変えようと思った人が、世界をいい方向に持っていってくれるのだと思うから」
しかし一方で、“厳しさ”もしっかり描かれている。
それをもっとも象徴するのがラクレス(矢野聖人)の描き方だ。前半、ラクレスは国民を犠牲にすることも厭わない暴君として描かれるが、実はそれは宇蟲王を倒すための“芝居”だったことが、42話で遂に明かされる。
だが、最終的には人類を救うためにやった“悪行”もなかったことにせず、王様戦隊は「許さない」という選択を取る。ラクレス自身も裁判で「私は多くの民を自らの意志で犠牲にしてきた。そのおぞましい事実が宇宙を救うという大義が私への情けで正当化されるようなことは未来永劫あってはならない」とハッキリと宣言するのだ。
「そこは迷いながら真剣に考えましたね。死ぬという選択肢もあったんですけど、生きて償うという方を選びました。そこは『王様戦隊』だからできたっていうのもありますかね。王様だからヒーローになっちゃいけない。英雄と王は違う。革命家が王になったら国がめちゃくちゃになったみたいなことが歴史的にもあるじゃないですか。王様とヒーローとの差っていうのは常に念頭に置いていました。
だから、王様たちが意外とドライな選択をしたりするのは、そういうところからなんですよね。ヒーローなら『みんなを救う!』って後先考えずに言えばいいんだけど、上に立って統治して民を守るためには、何かを切り捨てなきゃいけないときもある。
王様戦隊が、ラクレスが死ぬことを許さないっていうのは、すごく筋が通っているなと思ったんですよね。助けるのではなくて、誰も差別なく救った上で、ちゃんと人として裁いて、死よりも重い罰を与える。彼をヒーローにしちゃうと、この作品のテーマとしても崩れるような気がしたし、その方が前向きだと思ったんです。
ぶっちゃけラクレスを描き切るまでは死ねないと思いながら、万が一他の誰かが脚本に入るとしても、ラクレスの部分だけは俺が書かないとダメだって気持ちで書いていましたね。企画書の段階から決めた、全体を通しての大きな仕掛けでもあったし、1話からコツコツ積み上げてきたものだったんで。行き当たりばったりではなく、常に二重の意味を持たせながら書いたので、大変でしたけど、書ききれて感無量でしたね。
矢野さんもご自身で考えながら細かい演技をしてくれました。是非、もう1回見直してほしいですね。僕は全部知った上でラクレスの演技を見ているんですけど、1個もズレた演技してないですから」