ヤクザなら誰でも一度は被告になり裁判を経験する
野村被告は公正な裁判を求めたが、ヤクザほど「公正」から縁遠いものはないだろう。「暴力団や右翼団体は公正や公平とは正反対の組織だ。上意下達、絶対服従。下剋上は許さない。そうやって秩序を守り統制を保ってきた。世間では法の目を潜り抜け、公平公正の隙間を見つけ、人間の欲望や妬み嫉み、不安や恐怖を利用してグレーな部分でシノギを行い、生き残る。だから前科のないヤクザはいない。誰もが一度は被告になり、裁判を経験する」と前述した組長はいう。
しかし日本国憲法の第14条は「すべての国民は法の下に平等である」と定め、社会的身分や社会的関係において差別されないとする。野村被告が公正を求めるのは、法にかなっているといえる。だが今は鬼籍に入る暴力団系右翼団体の元会長は生前「ヤクザである限り法の下でも平等はない」と話していた。「ヤクザは、一般人なら捕まらない些末な罪で逮捕されることがある。別件逮捕もよくある話だ。これだけで十分不公平だと思うのだが、世間はそう思わない。ヤクザでいることだけで罪だと考える。だがヤクザも人間だ。組のため親分のためならどんな不公平も諦めるが、納得できない罪は飲み込めない」と元会長は話した。
死刑だった判決が無期懲役という判決に落ちたのだ。それでも野村被告は納得できなかったのだろう。即日上告した。福岡県警が頂上作戦を行って以降、工藤会では離脱する組員が増えて弱体化し、2023年末時点の構成員はピーク時の約2割にまで減少している。「野村被告はすべての事件で無罪を主張。田上被告も関与したものの殺意はなかったと主張している。推認による厳しい判決に対し徹底抗戦する姿勢を見せることで、警察や司法に屈しない工藤会トップの姿をアピールし、組の勢力をなんとか保ちたいのだろう」と前出の元刑事はいう。
福岡県警は工藤会が壊滅するまでその手を緩めることはないが、被告ら2人も組への影響力を手放す気はないのだろう。上告しても新しい証拠が出なければ、棄却される可能性が高いが、最高裁の行方はどうなるのか。暴力団、そして市民が注目する裁判はまだ終わらない。