「七代目」は誰か
ならば勝者は弘道会であり、高山若頭になるのか──。
暴力団抗争の勝者とは、喧嘩によって繁栄した側だ。神戸山口組からの移籍者を取り込み、弘道会だけが巨大化しているとはいえ、身内を食って太っているだけでは見せかけの繁栄に過ぎないだろう。
実際、弘道会系の直参組長ですら経済的に疲弊している。知り合いの弘道会組員は家賃が払えず、弘道会系事務所に寝泊まりし、毎日の賭け麻雀で食い扶持を稼いでいたが、ついには飛んで行方知れずだ。
「弘道会というだけでは食えない。才覚がなければ行き詰まる。弘道会は企業舎弟を組織し、独自の後援会システムを作っているというが、いつ問題になってもおかしくない。今までの経済基盤には安住できない」(50代の元弘道会組員)
暴力社会の利害関係は複雑に入り組んでいる。喧嘩に勝って勝負に負けるときもある。暴力社会の常識も、日々変化している。山口組は、もはや大組織にメリットがない事実を、この抗争で証明してしまった。
「万の組織が50人の組を潰せない。喧嘩になっても、当事者組織だけ相手にしていればいい。だったら大組織を恐れる必要などない。義理事ばかりで金を吸い上げられ、疲弊するよりは、中小の独立組織が動きやすい。なにせ山口組というだけで警察から狙い撃ちされてしまうのだから、山口組に加入するメリットよりデメリットがでかい」(独立団体幹部)
やられたらやり返す。殺されたら殺す。本来、ヤクザの論理はこの一点だが、これも過去の常識かもしれない。これだけの大差でも生き残っている脱退者に注がれる視線も、「よくこの四面楚歌を耐え抜いている」と暴力団社会での評価が変化してきた。沈みゆく船と分かっていても降りず、親分を見捨てない組員たちは、我が身を楯に踏ん張る若い衆の鑑と称賛されている。
暴力団は反社会勢力といわれ、社会から目の敵にされている。警察はあらゆる手を使って暴力団を壊滅させようとしている。業界全体が急激に衰退しているのに、前にも後ろにも進めない。終戦処理もできず、さりとて相手を潰せぬまま時間を浪費するだけなら、山口組は弱体化する一方だろう。