自助グループに繋がり、人間関係を整理することが重要
水原氏は大谷の傍らに常にいるパートナーのような存在だった。「通訳」という仕事をする人のなかでも、飛び抜けた知名度、名声があったように感じられる。そうした人生の価値とギャンブルを天秤にかければ自制心が働きそうなものだが、前出・田中氏は「それはギャンブル依存症を知らない人の思考」として、こう続けた。
「私も、夫婦で合計約3000万円の借金を抱えたことのある元ギャンブル依存症なんです。誰もが仕事での重圧や、日々のストレスに晒されています。ギャンブルに限らず、アルコールや薬も同じですが、依存症患者は、ストレスなどの解消のために、それをやらないといけない、という強迫観念に繰り返し襲われます。これは自分ひとりでどうにかなるものではありません」
では、どうやって回復を目指せばいいのか。田中氏は「少しでも早く、自助グループや専門の医療につながることが重要」と言う。
「アメリカにはギャンブル依存症専門のクリニックや、世界組織の自助グループ、ギャンブラーズ・アノニマスがたくさんあります。水原氏がアメリカにとどまるなら、そうした支援機関に入り、回復の支援を受けていく可能性があるのではないか」(田中氏)
治療と同時並行でやらなければいけないのが人間関係の整理だという。ギャンブル好きの仲間が周りにいたのでは、誘われてまたギャンブルの世界に戻ってしまうかもしれない。
「私の場合、かつては裏カジノなんかにも出入りしていました。治療を始めてからは、そういう場所を避けるのはもちろん、ギャンブル好きが集まるバーなどにも行かなくなりました。お酒を飲めば気が緩むから、アルコールも絶ちました」(田中氏)
そうした努力や工夫を重ねることで、依存症から回復することができるのだ。ただし、自助グループや専門の医療にたどり着けた人のすべてが依存症を克服できるわけではない。
「これまで20年、ギャンブル依存症の人たちと共に活動をしてきました。正確な統計はありませんが、専門の医師に聞くと、回復できるのは自助グループに繋がった人で3%くらい。医療に繋がった人でも30%ほどだといいます。そのくらい根の深いものなんです」(田中氏)
水原氏が今後どのような道を歩むのかは今のところわからないが、その道のりは険しいものとなりそうだ。