2018年9月、医師の説明に疑問を抱いた笑さん・航さん夫婦は、割り切れない気持ちでいっぱいになった
「私のお腹の赤ちゃんには、18トリソミーという染色体異常と横隔膜ヘルニアという重い病気があります。これからどうなるか分かりませんが、一生懸命自分たちにできることを考えて頑張っていきたいです。結婚して夫婦になったので、夫を支えます。子どもはもちろん二人で力を合わせて全力で支えます。そして……そして私は今の仕事を責任を持って人生を懸けてやっています! これからも仕事を頑張ります。どうか応援してください!」
一斉に拍手と歓声が巻き起こった。》
「禍福はあざなえる縄のごとし」という言葉があるが、結婚披露パーティーの後、妊娠9か月に入った笑さんは羊水過多の診断を受ける。1時間以上をかけ、1.5Lの羊水を除去した。その後、胎児の心音が安定しなかったため、6時間に及ぶ点滴を受けた。そして9日間の入院を余儀なくされた。
その後もいくつかの困難を乗り越えながら、希ちゃんは39週にまで育った。そして、笑さんは帝王切開による分娩当日を迎えた。
「赤ちゃん、生きてますか!?」
《笑は衣服を取り、側臥位になって可能な限り丸くなった。背中を突き出し、麻酔の注射を受ける。下半身から感覚がなくなり、周囲の看護師たちの手で笑は仰向けにされた。首のあたりにスクリーンが張られ、笑からは自分の体を見ることはできない。
ふと気づくと、手術室のドアが全開である。廊下が丸見えだった。笑は近くの看護師に尋ねた。
「扉は閉めないんですか? 開けたまま手術するんですか?」
「生まれたあとすぐに赤ちゃんをNICUに運ぶので、扉は開けておくんです」
(中略)
「よろしくお願いします!」
航は笑の手をギュッと握った。
笑の下半身には何の感覚もなかった。ガチャ、ガチャと金属音が連続し、途中から何かお腹を押されているような気がした。何が起きているか全然分からない。
すると突然看護師が叫んだ。
「おめでとうございます! 女の子です。12時58分です」
一拍置いて「1538グラムです!」という声が続いた。
(中略)
「生きてますか? 赤ちゃん、生きてますか!?」
何度も聞いた。そのとき、笑の不安を和らげてくれるように、笑のそばにいた新生児科の女性医師が笑の手首を摑んで希ちゃんの頭にペタッと触らせてくれた。》