人口が多い中国では競争が激しい世界
「芸能事務所の力で仕事を取るというよりも、俳優の個人的な繋がりで仕事をもらうことが多い。俳優が監督に高級時計など高額な贈り物をするのは当たり前。とくに女優は数が多く競争が激しいから皆必死です。ある芸能事務所の社長と大勢で円卓で食事していたときのことです。フリーランスの女優が社長の隣に座り、『私、今日大丈夫です』と迫っていた。
社長は『はいはい』という感じで流していて、両隣に人を座らせて女優が側に寄ってこれないようにしていたのですが、そうしたらその女優はなんと、円卓の下に潜り込んで社長の膝の間から顔をにゅっと出して、『行かない?』とアプローチを始めたんです。色仕掛けを隠さないことにビックリしました。やはり中国は人口が多いし、競争が激しいんだと改めて感じました」
そうして、中国の芸能界に足を踏み入れていった井上さんだが、その後のキャリアで「抗日作品」における“悪役”ばかり演じ続けたのはなぜなのか。どんな葛藤を抱えていたのか。告白は後編へと続く。
【後編へ続く】
◆取材・文/赤石晋一郎(ジャーナリスト)