大橋被告が住んでいたアパート
工藤さんの殺人未遂、殺人、そして一連の放火と詐欺には全て、大橋被告に起因した“重機売買トラブル”が絡んでいた。まず大橋被告は工藤さんから、10台の重機の売却を頼まれていたが、この売却代金を支払わず、着服していた。加えて工藤さんの勤務していた会社所有の重機を無断で売却してしまい、その売上金も費消していた。こうした被害を被った工藤さんは大橋被告にたびたび、売却代金の支払いや、重機の引き渡しを求めていた。だが大橋被告は着服や重機の無断売却を工藤さんに伝えず、納品や支払いの約束をしては、嘘をつきその日時を先延ばしにしていた。そして工藤さんと約束していた「重機の引き渡し日」だった2020年9月23日、八戸漁港での軽トラックによる殺人未遂事件が起こる。
「この日の正午前に被害者に電話をかけ、重機を引き渡すと告げ、被害者を軽トラックに乗せ、八戸漁港の岸壁に連れて行った」(判決より)という大橋被告は、途中で軽トラックの後輪ブレーキホースを切断し、そして別の車で同行していた妹に自分のスマホや財布を渡し、工藤さんを助手席に乗せ、軽トラックもろとも海中に転落させ、素早く脱出したという。
公判で被告はこの時のことを「工藤さんに本当のことを伝えて謝罪しようと思った。家に呼ぼうかと考えたが落ち着いて話せない。車の移動中に話そう」と思って八戸漁港まで工藤さんを連れて行ったと語っていたが、判決では「謝罪は七戸町から遠方の八戸漁港まで行かなくともできる」と一蹴されていた。
詐欺の被害者の家に次々に火を放ち……
なんとか車から脱出し、一命を取り留めた工藤さんは、その後周囲に「殺されるかも」と不安を漏らしながら、大橋被告に対し、重機売却代金の支払いや重機の引き渡しを求め続けていたが、殺人未遂から3か月後に、大橋被告の実家敷地内で除雪機に轢かれている。
大橋被告は「前日に工藤さんから電話があって、『実家の除雪に使いたいから除雪機を貸してほしい』と言われた」と、事件当日に工藤さんが被告の実家を訪れた理由を説明していたが、工藤さんの兄は「自分が朝にトラクターで除雪している。当日はすでに除雪を終わらせており、弟が実家に行くとも聞いていなかった」など証言。判決では「被告の主張は信用できない。当日、工藤さんが除雪機を操作する必要もなかった」として、事故であるという大橋被告の主張を認めず、「工藤さんをうつ伏せにさせて除雪機を乗り上げ圧迫、死亡させた」のは大橋被告であると認定した。
その後に起きた4件の詐欺や複数の放火についても、大橋被告は被害者らに、納品見込みのない重機の買取を持ちかけ、金を騙し取っていたことが原因だった。被害者らはたびたび、自分たちが金を払った重機の納品日がいつになるかと大橋被告に問い合わせていた。ところが納品の見込みがないため、そのたびに大橋被告は嘘をつき、納品日を先延ばしにしていく。
「実家に雷が落ちて、火事になった。重機の引換券が燃えて納品できない」