大橋被告の実家
約束の日になると、こんな荒唐無稽な嘘までつくようになった大橋被告は、次第にその嘘を“本当”にするようになった。2人の詐欺の被害者の家にそれぞれ火が放たれ、1軒は全焼した。別の被害者は敷地内の物置小屋が燃やされた。さらに大橋被告が当時妻子と住んでいたアパートの別部屋までボヤ騒ぎが起こる。大橋被告はそのたび、火事を理由に約束を先延ばしにしていた。
これらは全て大橋被告による放火であると判決で認定されている。証拠となっているスマホの位置情報からは、火事の起きた日時に、大橋被告が必ず火事現場にとどまっていることが分かっている。大橋被告はこれについても、殺害した工藤さんに対する弁解と同じように「謝るために相手の家に行こうとしていた」と被告人質問で証言していた。
「叩かれても怒られても、自分がやったことだし、直接会って話さないと、と考えてました。でも電話はできなかったので、車で家に向かっていました。電話で怒られるなら、直接怒られたほうがいいと思ったからです。
でも自宅近くまで行って……自分によくしてくれた人に対して、素直に、正直なことを言うことができず、うやむやにしようか、どうしたらいいんだろうー、と、ぐるぐると家の周りを走りながらどうやって伝えたらいいんだろうと考えて、結局家に行けず、謝ることもできず、家に帰りました」(被告人質問での証言)
このように全ての火事は“自分が謝るために相手の家に行ったが、謝れずぐるぐると車で回って帰宅した日に、偶然起こった”という摩訶不思議な主張を繰り広げたのだった。しかし判決では「嘘をついて取引相手に納品を強く求められて追い詰められた被告人が、不正発覚を防ぐために約束の前日や当日に相手や被告人の建物に放火した」と認定された。
工藤さんの殺人未遂や殺人についても「金銭に窮して自ら不正を働き、発覚を防ぐため嘘をつくなど不誠実な態度をとり、あげく、命を犠牲にして保身に走った。極めて身勝手で酌量の余地はなく人命軽視の態度は甚だしい。落ち度のない被害者の命を二度、危険に晒し、命を奪った責任は重大」(判決より)と厳しく断じられ、一連の事件について、求刑通りの懲役30年が言い渡されている。
大橋被告はこの青森地裁の一審判決を不服として控訴した。
◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)