2人の「ドラゴン・レディ」

 20世紀前半に、米国で「ドラゴン・レディ」と呼ばれた有名な中国人女性が2人いる。1人は、蒋介石夫人だった宋美齢。もう1人は、清朝時代の女帝の西太后だ。

「ドラゴン・レディ」とは、米国のスラングで、パワフルで狡猾、短気で傲慢で、神秘的なアジア人の女傑を表す言葉である。一説によれば、1934年、ミルトン・カニフが書いたアクション・アドベンチャー・コミックの『テリー&ザ・パイレーツ』に登場する悪役の女海賊を指す言葉だったが、そのイメージから、1930年代に宋美齢に対して使われるようになり、さらに時代を遡って清朝時代の西太后の代名詞にもなったとされる。

 宋美齢は、蒋介石・国民政府総統のファーストレディとして、英語が話せない蒋介石のために外交交渉での通訳を務め、日中戦争のさなかに米国から多額の軍事支援を引き出すことに貢献した。そして、日本との直接対決に及び腰だった米国を日米開戦へ向かわせようと、その背中を強く押したのだった。

 なぜ彼女にそんなことができたのか。彼女の絶大な影響力の源泉はどこにあったのか。また、そんな宋美齢の存在を、当時の日本はどのように受け止めていたのだろうか。

 考えれば考えるほど、次々に疑問が湧いてきた。

 そして、人生の終幕に際して、なぜ大切にしていたチャイナドレスを切り捨てたのか──。

 それらの疑問に対する答えは、彼女の生涯を振り返ることで見えてくるに違いない。

【プロフィール】
譚 璐美氏(たん・ろみ/璐は王偏に「路」) 

作家。東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大訪問教授などを務めたのち、日中近現代史にまつわるノンフィクション作品を多数発表。米国在住。主な著書に『中国共産党を作った13人』『阿片の中国史』『帝都東京を中国革命で歩く』『中国「国恥地図」の謎を解く』など。最新刊は『宋美齢秘録 「ドラゴン・レディ」蒋介石夫人の栄光と挫折』

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