被写体を想定以上に魅力的に撮った写真を「奇跡の一枚」と呼ぶ習慣がSNSで広まって久しい。たとえば、ファンが撮影したアイドルのライブでの様子が「奇跡の一枚」として拡散され、ブレイクのきっかけになることもある。ドナルド・トランプ前米大統領が演説中に銃撃されて負傷した事件で撮影された一枚の写真も、衝撃の強さをあらわした奇跡の一枚として大きな話題となっている。臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、なぜあの一枚が奇跡の一枚として受け止められているのかについて分析する。
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7月13日、米東部ペンシルベニア州で起きたトランプ前大統領の暗殺未遂事件、その銃撃後の様子を収めた奇跡の一枚が世界中で話題になっている。完璧な構図とまでいわれるその写真には、真っ青な空の下にはためく星条旗を背景に、避難させようとする複数のシークレットサービスが身体に組み付く中、右耳から流れる血を気にすることもなく、右手の拳を突き上げ、何かを叫んでいるトランプ氏が映っていた。撮影者は米AP通信のエヴァン・ヴッチ氏だ。
トランプ支持者にはもちろんのこと、政権奪還を狙う共和党員にとっても大統領選に大きく影響を与えるだろう一枚の写真。死んでいてもおかしくない状況で助かったトランプ氏は、流れる血を拭うことなく拳を何度も突き上げ、暴力に屈しない強いリーダー像を見せつけた。危機において、どれだけ強いリーダーシップを発揮できるのか、国の指導者たるものにこの資質は欠かせない。9.11のテロ事件が起きた米国でリーダーシップを見せたジョージ・ブッシュ大統領。ロシアがウクライナに侵攻してきた時、国民に団結を呼びかけたゼレンスキー大統領。当時、国民からの支持率は急上昇したのだ。
だがそれだけではない。この写真がなぜ世界中の人々に強いインパクトを与えるのは、誰もが見たことがあるだろう2枚の映像のイメージと重なるからだ。
ネット上でも話題になったが、1枚はフランスの画家ドラクロアが描いた「民衆を導く自由の女神」(1830年製作)。フランス7月革命を題材にしたこの絵は、自由の女神が右手に持ったフランス国旗を高く掲げ、倒れる人々や武器を持った人々を鼓舞するように導いている様子が描かれている。強いリーダーのもと革命を起こそうという気迫に満ちた一枚だが、これが奇跡の一枚が人々に与える印象とよく似ているのである。現政権を倒し、政権奪回を狙うトランプ氏や共和党にとって”革命”をイメージさせるに十分だ。