スポーツ

【パリ五輪柔道「待て」の合図後も絞め技で失神、一本負け】「国際審判員の技術レベル」と「男子の試合を女性審判員がジャッジすることの是非」レジェンド国際審判員の見解

(時事通信フォト)

永山が敗れた男子60kg級準々決勝。対戦相手のガルリゴスは審判の「待て」の後も締め技を続けた(時事通信フォト)

 熱戦が続くパリ五輪の柔道競技。初日に日本人選手第1号となる金メダルを女子48kg級で角田夏美(31)が獲得、2日目には男子66kg級で阿部一二三(26)が五輪連覇を果たし、“柔道ニッポン”の強さを示したが、そうした中で大騒動となったのが男子60kg級に出場した永山竜樹(28)を巡る審判の判定だった。

 永山は準々決勝で2023年世界王者のフランシスコ・ガルリゴス(スペイン)と対戦。残り時間1分ほどの場面でガルリゴスが片手絞めを繰り出すも、膠着状態が続いたためエリザベス・ゴンザレス主審が「待て」を宣告。しかしガルリゴスは「待て」の後も数秒間にわたって絞め技を継続したため永山は失神し(ガルリゴスは「待て」が聞こえなかったと説明)、両者の体が離れたあともしばらく起き上がれない状態となり、ゴンザレス主審はガルリゴスの「一本勝ち」を宣告した。判定を不服とした永山は握手を拒否して数分間畳を降りず、日本チームも猛抗議したものの受け入れられなかった(永山は敗者復活戦を勝ち上がって銅メダルを獲得)。この判定は世界的に物議を醸し、ゴンザレス主審に対してネット上で批判が巻き起こった。

 五輪では2000年のシドニー大会男子100kg超級の決勝(篠原信一対ドゥイエ)でも「疑惑の判定」が問題になった(*)。国際大会の判定と審判のレベルについて、長年にわたって国際審判員を務めた正木照夫氏に、『審判はつらいよ』の著者・鵜飼克郎氏が聞いた(文中敬称略)。

【*注/ドゥイエが繰り出した内股を篠原がかわし、内股すかしでドゥイエの背中を畳につけたものの、判定はドゥイエの有効。そのまま試合は終了し、篠原は銀メダルに終わった。試合後、全日本柔道連盟が国際柔道連盟(IJF)に抗議書を送付。IJFは「両者とも技は完全ではなかった」として、ドゥイエ有効の判定を誤審と認めた。これがきっかけとなって「ビデオ判定」が導入される】

(時事通信フォト)

2000年シドニー五輪100kg超級決勝は「世紀の誤審」と呼ばれた(時事通信フォト)

 * * *

 五輪や世界選手権をはじめとする柔道の国際試合で審判を務めるには、全日本柔道連盟(全柔連)のライセンスとは別に「国際審判員」の資格が必要となる。

 1947年生まれの正木は拓殖大学在学中の1969年に全日本学生柔道選手権(無差別級)で優勝、大学卒業後に和歌山県の高校教諭となってからも全日本選手権に10度出場。出場選手中最年長の32歳で出場した1979年の同選手権では、大会3連覇を狙う22歳の山下泰裕(1984年ロス五輪金メダル)と大熱戦を繰り広げた。

 1984年、競技実績を買われた37歳の正木は全柔連から声をかけられて審判員となり、それから6年後の1990年、全柔連の推薦を受けて国際ライセンスの試験を受験した。国ごとにレベルは違うとはいえ、すでに自国で一定のキャリアを積んだ者だけが集まるため、座学のようなものはなく、いきなり実際の試合会場、それもシンガポールで開催されていた国際大会が試験の舞台だった。

 受験者は10日間にわたって審判を務め、審査官が点数をつける。これでまず30人の受験者が約半数に絞られた。

「残った者は英語の講習を受けました。といってもやはりペーパーテストでなく、柔道着を着ての実技です。まずは受験者の目の前で(地元の)シンガポール選手の技を見て、“この技は何ですか?”と質問される。私が“背負い投げです”と答えると“OK”となるわけです。

 見るだけではありません。“ミスター・マサキ、ウチマタをやってください”と指名されるのです。私の得意技なのでスパッと決めてみせると、周りから“オー、ワンダフル!”の声が上がる(笑)。八段の私にこんなバカげた試験はないとも思いましたが、それでも指定された技がわからなかった者もいて、合格したのは10人ほどでした」

 国際審判員といっても、競技用語は「一本」「技あり」「待て」といった日本語の単語だけなので、「語学力は不要だった」と語る。試合中に選手に指示をする際に英語を使うこともわずかにあるが、正木は片言の英語で20年間にわたって国際審判員を務めた。

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン