フランス凱旋門賞も経験、34年間の騎乗で夏のレースも冬レースも知りつくす蛯名正義氏
特に夏場の水分摂取はとても大事で、汗で出た分の量を飲めば良いというものではなく、いかにカラダに吸収されやすいものを、負担をかけずに摂るかだと思っています。
それは馬でも同じではないかなと思っているのです。通常厩舎では、馬がいつでも水を飲めるように馬房に水を用意していて、更にその水分を上手に吸収させることも注意しています。
馬が運動などでかいた汗には、水分の他ナトリウム、カリウム、塩素などの電解質が多く含まれています。馬の夏負け対策には、水分と共に失われた電解質の補給が必要だと思います。人間のように、スポーツドリンクのようなものってないのかなとか、もっと吸収が早い、失ったものをすぐ補給できるような飲み物はないものかなど、いろいろ研究されているようです。
ただ難しいのは、そこに馬の嗜好が入ってしまうこと。なんでもかんでも飲んでくれる、食べてくれるということはないのです。いまはサプリメントなども研究されていて、飼い葉と一緒に食べさせようとするのですが、何かが気に食わないのか、飼い葉はしっかり平らげているのに、サプリメントだけ残していたりすることもあるのです。
これは飲食物だけに限りません。たとえば、気温が高いのにエアコンがきいている場所を嫌がる馬もいる(笑)。不思議な動物ですよね。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2024年8月9日号