ライフ

荻堂顕氏、新作長編『飽くなき地景』インタビュー 「戦争や昭和史の当事者が少なくなる中で非当事者が誠実に語っていくことが大事」

荻堂顕氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

荻堂顕氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

〈祖父は僕に、覚えきれないほど多くの教訓を授けてくれたが、その授け方はいつも風変わりだった〉

 当時8歳の話者が回想する冒頭の「一九四四年」から終章「二〇〇二年」まで、荻堂顕氏の新作『飽くなき地景』は、東京・目白台に広大な屋敷を構える旧華族〈烏丸家〉に生まれ、刀に関して無類の審美眼を持つ祖父の薫陶を受けて育った〈治道〉及び東京そのものの歩みを追った、美と血と街を巡る壮大な一代記だ。

 地景とは元々刀剣用語で、素材となる鋼の炭素濃度や硬度の違いが一種の景色として現われた文様のこと。愛好家の間ではこの〈均一ではない部分〉こそが美しいとされ、〈日本人は不均一を尊ぶ美意識を持っていたんだ〉と、今は亡き祖父の友人は治道に言った。

 そんな祖父とは対照的に、大叔父の興した建設会社を一大企業に育て上げ、東京をビルだらけにしてきた父〈道隆〉の野心や放埓さを治道は憎み、祖父が遺した太田道灌由来の名刀〈粟田口久国の無銘〉にますます魅入られていくのである。

 2021年の『擬傷の鳥はつかまらない』以降、話題作を連発する著者は世田谷出身。東京とその戦後史はいつか書きたい題材だったという。

「といっても元々は日本版『グレート・ギャツビー』みたいな一人称の一代記を書こうとしていて、最初に浮かんだのが柴田翔さんの『されどわれらが日々―』だったんです。でも左って傑作も多いし、自分は右をやろうかなと思った矢先に、刀というモチーフが本当にポコンと頭に浮かんだ。

 そして刀について調べるうちに、戦後まもない頃に日本美術刀剣保存協会初代会長の細川護立が、刀は美術品だとGHQに認めさせる形で没収を免れた話を知ったんです。さらに東京の戦後で面白いのはやっぱり建築や土地開発だろうと、大林組や清水建設や西武の堤家の歴史を調べてみたり、いろんなモチーフが何重にも重なっていきました」

 結果、舞台は旧細川邸、家庭事情は堤家を彷彿とさせるが、モチーフはモチーフに過ぎないという。

「安藤昇や円谷幸吉など、他にもモデルが分かりやすい人物はいますが、あくまで主題は時代ですから。丹下健三や田中角栄のように作中では喋らないキーマンは実名にし、お店も治道の大学の近くの『葉隠』や『金城庵』、あとは『渋谷ロロ』のような今はない店も含めて、現実との接点になってくれるといいなあと思って実名にしています」

関連記事

トピックス

本格的に中国進出をめざすならば…(時事通信フォト)
《年内結婚報道》橋本環奈と中川大志の「結婚生活」に立ちはだかる“1万kmの距離” 2人の異なる“海外進出の希望先”
週刊ポスト
「池田温泉旅館 たち川」の部屋風呂に「温泉偽装疑惑」。左はHPより(現在は削除済み)、右は従業員提供
「水道水にカップ5杯の重曹を入れてグルグル…」岐阜県・池田温泉「高級旅館」の部屋風呂に“温泉偽装”疑惑 ヌルヌルと評判のお湯の真実は…“夜逃げ”オーナーは直撃に「誰からのリークなの? それ」
NEWSポストセブン
これまでジャズ歌手などとしても活動してきた参政党・さや氏(写真/共同通信社)
参政党・さや氏、歌手時代のトラブル証言 ジャズバーのママが「カチンときて縁を切っちゃいました」、さや氏は「そうした事実はない」…真っ向食い違う言い分
週刊ポスト
もうすぐ双子のママになる。Numero.jpより。
Photos:Mika Ninagawa
中川翔子3年にわたる不妊治療と2度の流産を経験 。 双子の男の子のママになる妊婦姿を披露して話題に
NEWSポストセブン
錦織圭とユニクロの関係はどうなるか(写真/共同通信社)
「ご本人からの誠意ある謝罪があった」“ユニクロ不倫”錦織圭、ファーストリテイリング広報担当が明かしたスポンサー契約継続の理由
週刊ポスト
趣里と父親である水谷豊
《女優・趣里の現在》パートナー・三山凌輝のトラブルで「活動セーブ」も…突破口となる“初の父娘共演”映画は来年公開へ
NEWSポストセブン
岐阜の「池田温泉旅館 たち川」が突然の閉鎖、事業者が夜逃げした(左は旅館のInstagramより)
【スクープ】岐阜県の名所・池田温泉の人気旅館が突然の閉鎖 町が運営委託した事業者が“夜逃げ”していた! 町長からは228万円の督促状、従業員が告発する「オーナーの計画」 給料も未払いに
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏は2017年にダブル不倫が報じられた(時事通信フォト)
参院選落選・山尾志桜里氏が明かした“国民民主党への本音”と“国政復帰への強い意欲”「組織としての統治不全は相当深刻だが…」「1人で判断せず、決断していきたい」
NEWSポストセブン
オンカジ問題に揺れるフジ(時事通信)。右は鈴木善貴容疑者のSNSより
止まらない「オンカジドミノ退社」フジテレビ社内で話題を呼ぶ
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《まさかの“続投”表明》田久保眞紀市長の実母が語った娘の“正義感”「中国人のペンションに単身乗り込んでいって…」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン