ライフ

【岩瀬達哉氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】アメリカの病理を探る『国家の危機』トランプ再選で世界秩序は混乱、日本もその波をかぶり欺瞞の政治がはびこる

『国家の危機』/ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ・著 伏見威蕃・訳

『国家の危機』/ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ・著 伏見威蕃・訳

【書評】『国家の危機』/ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ・著 伏見威蕃・訳/日経ビジネス人文庫/1320円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 4年前の大統領選挙でバイデンの勝利が確定したとき、トランプは「ホワイトハウスは渡さない」といって、「癇癪持ちの六歳児みたい」に怒りを爆発させた。「人間が耳から炎を噴くことがあるとすれば、これがそうだった」

 側近が、「ジョー・バイデンに電話してください」と懇願しても「ノー」と譲らず、「選挙違反」によって票が盗まれたと主張。多様性によって立場を奪われたと思い込む白人至上主義と反ユダヤ主義の熱烈な支持者たちを煽り続け、「アメリカを救う行進」という名のもと、議事堂への暴徒の乱入を傍観した。今回の再選によって、司法はトランプへの起訴を取り下げた。

 本書は「自己愛性パーソナリティー障害」のトランプと、「温和なおじいちゃん」のバイデンの選挙戦を通し、アメリカの病理と、分断の加速するさまを、周囲の人々の息遣いをもって活写する。

 自分のやり方を押し通すため「恐怖を利用する」トランプの手法にかかると、「頭が切れて理性的な人々」ほど心が折れ、「自分のためにならないことをやってしまう」のである。

 真の力とは「恐怖」、との信念をもつトランプは、ホワイトハウスを追われてもなお「恐怖」を煽り続けた。「彼らは私が大好きなんだ」という支持者を前に、「私たちは屈服しない。私たちは降伏しない。私たちは絶対に折れない。絶対にあきらめない」「私の仲間のアメリカ国民たちよ、私たちの運動は、まだ終わっていない」と、戦時下での「チャーチル風の演説」を繰り返した。こうしてバイデンの穏健路線に不満を抱く人々を取り込むことに成功し、ホワイトハウスへの返り咲きを果たしたのである。

 強いアメリカの再興を訴え、その実現を約束してきただけに、公約実現のため、一瞬のひらめきや思い付きで支離滅裂な政策が打ち出され、世界秩序が混乱する。従属国家としての日本は、その波をかぶり、これまで以上に欺瞞の政治がはびこることになろう。

※週刊ポスト2025年1月3・10日号

関連記事

トピックス

サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
皇室に関する悪質なショート動画が拡散 悠仁さまについての陰謀論、佳子さまのAI生成動画…相次ぐデマ投稿 宮内庁は新たな広報室長を起用し、毅然とした対応へ
女性セブン
定年後はどうする?(写真は番組ホームページより)
「マスメディアの“本音”が集約されているよね」フィフィ氏、玉川徹氏の「SNSのショート動画を見て投票している」発言に“違和感”【参院選を終えて】
NEWSポストセブン
スカウトは学校教員の“業務”に(時事通信フォト)
《“勧誘”は“業務”》高校野球の最新潮流「スカウト担当教員」という仕事 授業を受け持ちつつ“逸材”を求めて全国を奔走
週刊ポスト
「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
2人は互いの楽曲や演技に刺激をもらっている
羽生結弦、Mrs. GREEN APPLE大森元貴との深い共鳴 絶対王者に刺さった“孤独に寄り添う歌詞” 互いに楽曲や演技で刺激を受け合う関係に
女性セブン
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン