聖徳太子の一万円札は1958年から1986年まで発行されていた(写真提供/イメージマート)
驚いたのは依頼主だ。「まさか母がこんな所にお金を貯めていたなんて」と次から次へと出てくるお札に目を丸くしていたという。「最終的にお札は2つの6畳の部屋にきれいに敷き詰められていました。それも福沢諭吉の新札で。年金が入る度に、銀行でおろした新札を一枚ずつ畳の下に敷いていったんでしょう」とF氏。
だが部屋に入った時は、F氏はそんな予感がしたという。「古いマンションだけに壁紙は経年劣化で色褪せていました。そういう部屋だと畳は昔ながらの重い畳で、日焼けしているのが普通。でもその部屋は畳だけ軽いものに張り替えてあったんです」。高齢女性でも上げ下ろしがしやすいよう軽量で扱いやすい畳に変えてあったというのだ。
「こんな所にへそくりを隠しておくなんて」
このケースに限らず、古いマンションや団地などに長く住んでいる高齢者が亡くなった場合、畳の下からお札が出てくることがあるとF氏は話す。「銀行に預金しておくと、銀行から”この定期をやりませんか”とか”今度、これが新しく出ました”とか電話がかかってくるので面倒という高齢者は多い。手元に置いておくのが一番だけど、タンス貯金は泥棒に見つかりやすい。そこで畳貯金になるようです」。
リフォーム業者K氏は、レトロな佇まいの団地に住んでいた1人暮らしの高齢男性の部屋の整理を家族から頼まれた。男性が認知症で施設に入ることになり、長年借りていた団地の部屋を退去することになったのだ。間取りは1DKで8畳のダイニングキッチンに6畳の和室。男性は和室にベッドを置いて寝起きしていたという。家族立ち合いの下、荷物を整理し冷蔵庫や洗濯機、家具を運び出した。「賃貸物件では退去時にできる限りの掃除をするのが鉄則」というK氏は、がらんとなった和室で畳のホコリを払おうと畳を持ち上げた。
出てきたのは沢山の魔除けのお札。「それを見た家族が思わず悲鳴を上げましたよ。どこからもらってきたのか、見るからに不気味で、こちらも背筋がゾッとした」というK氏だが、そのお札を片付け始めてさらに驚いた。「お札の下から聖徳太子の一万円札が出てきたんですよ」。
出てきた一万円札は昭和の時代に発行されていた一万円札。「ずっと畳の下に隠しているうちに、年を取って畳の上げ下げができくなり、そのうち認知症になって忘れてしまったんでしょう」とK氏。知らなかった畳貯金に家族は「こんな所にへそくりを隠しておくなんて。誰にも見つからないよう魔除けのお札を置いたのかしら」とため息交じりに拾い集め、「施設入居の足しにします」と帰っていったという。
家族や親族が長年、畳のある家に住んでいたなら、一度畳の下を見てみるといいかもしれない。