国立スポーツ科学センター(筆者撮影)
代表に選ばれたアスリートが、練習の場でのハラスメントを理由に姿を消す──新体操日本代表「フェアリージャパンPOLA」のチーム内で、そんな衝撃的な“事件”が起きたにもかかわらず、全く報じられていない。競技団体である日本体操協会はその事実を伏せる対応を続けてきたが、取材を進めると数々の疑念が浮かび上がってきた。
ボイコットの背景には、日本体操協会・新体操部門の強化本部長、村田由香里氏(43)の“パワハラ疑惑”や、男性トレーナー・A氏の“セクハラ疑惑”があった。新体操の国内トップ、橋爪みすず副会長(61)は3月にクラブや保護者向けの説明会を開催したが、そこで報告された選手への聞き取りも、第三者でなく“身内”が行っている。当人、そして協会は直撃取材にどう答えるのか。ノンフィクション作家の広野真嗣氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
選手に「公表リスク」を説明
コンプラ委員会など第三者に調査や判断を委ねない理由に迫るうえでは、説明会の3日前の3月9日、選手への聞き取りを行なった男子体操の強化本部長・水鳥寿思氏が選手9人に語った言葉がヒントになる。選手の話を聞いたある関係者が明かす。
「水鳥氏は、“コンプラ委員会に訴える権利はある”と語りかける一方、その際は一つひとつの事実の証明が必要で、結果はメディアにも公表することになる、そのリスクも含め判断してほしいという趣旨を語ったそうです。そして別の選択肢として、(A氏に)新体操に関わらないという誓約をしてもらうことで関係を断つ選択肢もあると」
コンプラ委員会を使う選択肢では公表リスクがあるのだと、それとなく強調したという証言だ。関係者が続ける。
「さらに水鳥氏は、村田氏交代を望むか、水鳥氏も間に入って村田氏の周囲のサポート体制を固めることで現体制のまま進めるか、という二択を示したうえで、“辞めさせて解決するという気もしない”とも話したそうです。これに対し、選手側は“自分たちには決められない”と答えている」
結果、A氏に対して3月2日にJISSへの立ち入り禁止を言い渡していた協会は、A氏の契約を4月以降は更新せず、事実上クビにした。他方、村田氏については、5月に入ると非公開の幹部会議で正式に「続投」を決定した。
見逃せないのは続投かどうか不透明だったはずの4月6日の段階で、村田氏が日体大新体操部の保護者会で今回の件について、「JOCとかのコンプライアンスの方に選手の聞き取りを聞いてもらって、大きくパワハラとかはなかった」と発言したことだ(入手した音声記録より)。述べてきた通り、選手に聞き取りをしたのは協会執行部で、コンプラ委員会ではない。事実と違う内容なうえに、正式決定前に自身の続投を確信した口ぶりだった。
そうして今月から動き出した新体制では、予告通り水鳥氏が新体操への関与を強め、アシスタント役として前強化本部長の山崎浩子氏が加わったようだ。体育館では、村田氏が指導現場から離れていた3~4月に代理を務めたジュニア団体担当のコーチが引き続き指導する変則的な体制が続く。