AIは心を持っていない。しかしAYには心がある
SFや寓話ふうの作品もあれば、リアルな現代小説もある。3つぐらいのアイディアを贅沢に使って短い一篇に仕上げている。
「5000字だから、もちろん1つのアイディアで書くこともできるんですけど、それだと物語の奥行きが足りない。短いからこそ奥行きが必要で、3つぐらいのアイディアを入れて、もっと書きたいところで終えるのがいいみたいです」
文章もイラストも手書きで、思いついたことはノートにメモを書き溜めているそう。
こうした小説のアイディアはどんなときに生まれるのだろう。
「よく聞かれるんですけど、アイディアってポコンと落ちてくるものじゃないんですよ。自分の中にある磁石みたいなものにひっついてくるので、自分の中に何か持っていないとアイディアって、やってこない気がします。言葉でもなんでも、気になっていることを、そんなに大したことじゃなくてもメモを取るようにしていると、別の何かがくっついてきて、そのときアイディアという形になるんだと思います」
2001年に出たクラフト・エヴィング商會の著作『ないもの、あります』が、今年の本屋大賞の「超発掘本!」に選ばれた。
受賞スピーチでは、AIのことを話したそうだ。
「ぼくは頭文字がAYなんで(笑い)、AIには親近感もあるし、競争心も芽生えるんですけど、AYは探偵小説は書けるのか、詩は、戯曲は、って何をどこまでできるか、っていうことに興味があります。
AIは、いろんなことを知ってるし何でもやってのけるし、知れば知るほど手ごわいけれど、心は持っていない。AYには心がある。今回の本って、心とか魂とか、書いている間に自分が考えていたことが反映されているのが、書いたあとでわかりました。心っていうのは、究極の『ないもの、あります』ってことなんですよ」
【プロフィール】
吉田篤弘(よしだ・あつひろ)/1962年東京生まれ。小説を執筆する傍ら、「クラフト・エヴィング商會」(妻・吉田浩美さんとの制作ユニット)名義による著作とデザインの仕事を手掛けている。著書に『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『イッタイゼンタイ』『電球交換士の憂鬱』『それでも世界は回っている』『おやすみ、東京』『天使も怪物も眠る夜』『流星シネマ』『なにごともなく、晴天。』『中庭のオレンジ』『羽あるもの』『十字路の探偵』などがある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年5月29日号