『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』/デビッド・ロブソン・著 土方奈美・訳
【書評】『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』/デビッド・ロブソン・著 土方奈美・訳/日経ビジネス人文庫/1100円
【書評】加谷珪一(経済評論家)
高学歴で優秀とされるエリートたちが、なぜか失敗ばかりを繰り返すというのは、身近な企業社会の中でもよく観察される現象ではないだろうか。「知的エリートほど仕事がデキない」という話は、非エリートのやっかみと捉えられがちだが、そうではないことが本書を読めばハッキリする。
高度な専門知識を持つ人物が、専門知識に溺れてしまい完全に誤った結論を出してしまうケース、知性の高い人物がいとも簡単にエセ科学を信じてしまうケースなどが豊富に紹介される。結局のところ、どれだけ頭が良くても、人間は感情に左右される動物であり、感情の呪縛から逃れることはできない。
本書の中で著者は、外国語で物を考えると論理的思考が向上すると述べている。以前、あるスポーツ選手が競技後にインタビューを受けた際、日本語の質問に対しては意味不明な回答をしていたにもかかわらず、英語でのインタビューになると、突如、理路整然とした会話になって驚いたことがある。
外国語になると一息つかなければならないので、論理性が増すという仕組みだが、これこそが「頭が良くなれるのか」の境目といえるだろう。著者によると、感情を持たないことが大事なのではなく、自身の感情を理解し、それを的確に表現できるようになると失敗を減らせるという。
本書の後半では、具体的にどのような取り組みを行えば、こうした罠から逃れられるのかについて解説している。ネタを少しバラせば「謙虚さが大事」という話であり、書かれていること自体はそれほど難しいことではないのだが、日々の生活の中でそれを実践するのは意外と難しいだろう。なぜなら、謙虚さを意識できない人は、本書の具体例を読んでも、それをバカにして実践しないかもしれない。人間のプライドとは何ともやっかいだ。
※週刊ポスト2025年6月6・13日号