デフサッカー男子日本代表が異例の活動中止に…(4月2日の親善試合。時事通信フォト)
今年11月、聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」が日本で初めて開催される。デフアスリートの晴れ舞台が半年後に迫る5月19日、「日本ろう者サッカー協会」が、デフサッカー男子日本代表チームの合宿を延期することを発表した。背景には、アスリートファーストの理念とはかけ離れたチーム運営があった。
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想像してほしい。自分の呼吸音さえ聞こえない無音の世界。アイコンタクトやジェスチャーだけでチームメイトと息を合わせてドリブル、セットプレー、シュート──歓喜するサポーターの声さえも選手に届かないサッカーがある。
2025年4月2日、聴覚障害を持つ選手で構成されるデフサッカー男子日本代表が東京・国立競技場でJFL(日本フットボールリーグ)のクリアソン新宿と親善試合を行った。これは「デフリンピック」に向けた壮行試合という位置づけだ。健常者チームを相手に惜しくも0-2で敗れたが、森保ジャパンと同じサムライブルーのユニフォームに身を包み、晴れの舞台である国立の天然芝のピッチを存分に駆け回る彼らの表情は、高揚感に満ちていた。
試合後、主将でゴールキーパーの松元卓巳は「日の当たらない代表が夢の舞台でサッカーができる素晴らしい機会をいただき、感謝しています」と涙ながらにコメント。FW岡田拓也は声を掛け合えないハンデを言い訳にせず、「連係ミスです。これから改善していきたい」と敗戦の弁を述べ、次への期待をにじませた。
吉田匡良監督も「悔しいが、この負けはデフリンピックで優勝するための通過点。必ず優勝を勝ち取りたい」と宣言し、デフリンピックでクライマックスを迎えることを約束した。デフリンピックの機運を盛り上げる壮行試合としては、ほぼ満点といっていいだろう。
デフサッカー男子日本代表は世界でも強豪チームだ。2023年10月にマレーシアで開催されたW杯では史上初の準優勝、次いで2024年末のアジア太平洋ろう者競技大会では優勝をものにしている。
だが、異変が起きた。5月19日「日本ろう者サッカー協会」のWebサイトにこんな「お知らせ」が掲載されたのだ。
《この度、当協会に対し、デフサッカー男子日本代表チームの運営に関わる重大な申出があり、外部の専門家も交えた公正かつ客観的な調査の準備を進めております。》
《関係各所と協議のうえ、5月22日から24日に実施を予定していた天王洲公園(東京都品川区)での日本代表合宿ならびに品川CCとのエキシビジョンマッチを延期することといたしました。》
《関係者の人権とプライバシーに十分配慮しつつ、誠実に対応してまいります。》
いったい何が起きたのか。関係者が匿名を条件に内幕を明かす。
「合宿延期は、吉田監督の選手対応や指導に疑問を感じた選手たちが、参加をボイコットしたからです。吉田監督は、代表活動中に専属の手話通訳者をつけることをせず、選手とのコミュニケーションを読唇に限るなど、選手たちから見ると、“自分たちとの関係をないがしろにしている”と感じるような対応が重なっていたと聞いています」
デフサッカー特有の事象もあったという。
「聴覚障害があり、発話にも程度の差がある選手に対し、“声を出せ!”と指示するなど、吉田監督は、障害理解に乏しい言動、行動をとることもありました。そもそもプレー中は補聴器や人工内耳を外すので、声を出しても聞こえないでしょう。もともと、吉田監督は障害への理解がある人だったはずなのですが・・・・」(前出・関係者)