『近親性交 語られざる家族の闇』/小学館新書/1100円
【著者インタビュー】阿部恭子さん/『近親性交 語られざる家族の闇』/小学館新書/1100円
【本の内容】
阿部さんは本書「はじめに」でこう綴る。≪近親性交──それは愛なのか暴力か、なぜ性交の相手に家族を選んだのか、各事例を通して被害者の証言のみならず、加害者の動機に迫る。そして近親性交はなぜ生じるのか、その社会的な意味と日本の家族を取り巻く社会が抱える課題について検討を加えたい≫。家庭は本当に安全で安心できる場所なのか、具体的な事例を通して、漠然と信じられてきた「家族神話」と日本社会に一石を投じるスリリングな一冊だ。
「近親相姦」ではなく「近親性交」とした理由
本のタイトルも本文でも、「近親相姦」ではなく「近親性交」という言葉が使われているのが目を引く。
「かつては『近親相姦』という言葉が使われてきましたが、それだと当事者の合意や意思があるという誤解を生むこともあり、性交渉があるという事実だけを示す『近親性交』という言葉が使われるようになってきています。
本のタイトルってすごく大事だと私は思っていて、いまは『近親性交』と検索しても『近親相姦』という言葉が出てきてしまいますが、これからはインターネット上でも『近親性交』が使われるようになってほしいです」
阿部さんは東北大学大学院在学中の2008年に、犯罪加害者家族を支援するNPO法人「World Open Heart」を立ち上げ、活動してきた。『息子が人を殺しました 加害者家族の真実』などの著書もある。
加害者の家族というだけで非難され責任を問われる社会で、これまでに3000件以上の相談を受けてきた。相談を通して事件の背後にある家族の問題に気づき、家庭という密室に閉じ込められてきた声に耳を傾けて書かれたのが新刊『近親性交 語られざる家族の闇』である。
殺人事件の加害者家族が世間から切り離されて暮らす中で母子が性交するようになったケースや、何不自由なく暮らしているように見えた医師の妻が、思春期の息子と性交し子どもを産んだケースも出てくる。弟からのレイプ被害を訴えている女性が、かつては幼い弟に性暴力を加えていたということもあった。加害者家族の中に、性加害/被害の関係が入り込む複雑な構図だ。
支援活動を通して長いつきあいがあるとはいえ、当事者たちは、なぜこれまでひた隠しにしてきたことを阿部さんに話すのだろう。