引退すると言っていたのに誰も真面目にとりあっていなかった(写真提供/イメージマート)
警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、ヤクザの引退宣言について。
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若い頃から数十年、ヤクザとして生きてきた暴力団の元幹部が引退を決めた時のことだ。家族に引退を伝えると、元幹部も驚く想定外の反応が返ってきたという。
元幹部は1年ほど前から周りや家族に対して引退の意向を口にしていた。だが誰も彼が本当に引退するとは思っていなかった。かくいう著者もその一人で、やめようと思うと聞いても本気にはしていなかった。暴対法や暴排条例で規制がどんどん厳しくなっても、六代目山口組の分裂抗争にヤクザ業界が揺れても、コロナ禍で今までのシノギができなくなっても、元幹部は飄々とした顔で臨機応変に立ち回り、鋭い嗅覚で仕事を見つけ、時には法ギリギリのグレーゾーンで稼いでいたからだ。それだけ元幹部はどっぷりとヤクザの世界につかって生きていた。引退することに決めたと聞いても「誰が?」という感じだったのだ。
中でも驚いたのは元幹部の家族だった。だがその驚きは彼の想像とはまったく違うものだった。「若い頃からヤクザ稼業についていたもんだから、家族は俺が本当にヤクザをやめるとは思っていなかったんだな。死ぬまでヤクザと思っていたのかもしれない」と元幹部。実家は商売を営んでおり、暴力団とは無縁。だが中学時代から不良少年の仲間入りをし、高校では暴走族、お決まりのようにヤクザの道に進んだ。ヤクザになることに疑問も持たず、ヤクザが天職だと思っていたと話すほどヤクザ一筋、ヤクザ一色だった元幹部。家族にしてみれば、ヤクザ以外の彼の姿を見たことがなかったのだ。
元幹部がヤクザをやめる決心をした理由は「ヤクザがつまらなくなったから」だ。「暴対法に暴排条例、分裂抗争にコロナ禍で、ヤクザがやれることは少なくなった。六代目山口組が分裂した当時は、毎日がワクワクしたが、今はそんなこともない。ヤクザでいることがつまらなくなったんだ」。天職と思っていたヤクザ稼業が、時代や環境の変化で退屈なものになってしまったという。
「ヤクザに未練はないね」