カタギになってゴルフを解禁した(写真提供/イメージマート)
「ヤクザをやめてやっていけるのか」
ヤクザをやめてカタギになると聞けば、今のご時世、家族にとっては諸手を上げて喜ぶような善事だろう。関東を拠点に活動するある組長は、自分が知るヤクザで刑務所暮らしを知らない者はまずいないと豪語していたほどだ。ヤクザになれば前科者になるのは必至で、前科何犯かはヤクザのステータスになると聞いた。暴力団の家に生まれ育ったのでなければ、身内にヤクザがいるというのは、前科者がいるということだ。家族の縁を切ってしまえば関係ないが、肩身が狭いと思う家族もいるだろう。
周りの人間や知人らに引退を伝えると「おめでとうございます」という返事が返ってくる。「これじゃあ定年退職みたいだな」と苦笑いする元幹部だが、家族に引退を聞いた時に想像していたのは「ようやく引退か」「これでカタギだな」と家族がほっと安心するし、喜ぶ姿。しかし兄弟たちは「本当にやめるのか? 大丈夫なのか」「それでどうやって生きていくんだ」「ヤクザをやめてどうする? 食べていけるのか?」と心配そうな顔をした。
「『ヤクザをやめてやっていけるのか』と言われた時には驚いたね。俺の仕事なんてブローカーみたいなもので、普通の会社務めのサラリーマンとは違うだろう。組を引退したからといって何かが変わるもんじゃない。『これまでと何も変わらない』と伝えると、不思議そうな顔をされたね」と話す。「言ってみれば組を辞めてヤクザを引退するというのは、”飼い犬”が”野良犬”になっただけだ。飼い犬といっても首輪がついていただけの放し飼い。エサは自分で調達しないといけないんだから、引退してもしなくても仕事は何も変わらない」と元幹部はいう。
元幹部にとって首輪が重かったのか、軽かったのかはわからない。引退が彼にとっておめでたいことなのかどうかもわからない。退屈でつまらない毎日から脱却するために引退を選んだという元幹部は、カタギになってゴルフを解禁した。
「カタギになったんでゴルフ場に行けるようになったんだよ。規制が厳しくなりヤクザはゴルフ場も出入り禁止。ゴルフはやめていたんだが、いい機会だから再開しようと思う」という。ゴルフはできるが、元幹部の背中には刺青があるためお風呂には入れない。「それでも俺はカタギだ。カタギの生活なんて学生時代以来だ。しばらくは”カタギ”生活を楽しむよ」、何気ない普通の日々を元幹部は楽しんでいる。