イランからの攻撃すべてを防ぐことはできなかったイスラエル(ネタニヤフ首相/時事通信フォト)
イスラエルとイランの紛争は、米国の参戦に発展。秘密裏に核施設への軍事作戦が実行され、短期間での「停戦合意」に至ったように見えた。しかし、トランプ大統領による停戦発表後もイスラエルが攻撃をするなど、中東情勢は今なお緊迫した状況だ。次なる有事に向けて秘かに進められる「トランプ軍事作戦」──それを可能とするのは、驚異的な速さで進化する最新兵器の数々だった。【全3回の第3回。第1回から読む】
なぜイランのミサイル攻撃をすべて防ぐことができなかったのか
トランプ大統領は宇宙空間でもミサイルを迎撃して米国全土を防衛する次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を2029年までに運用開始すると表明した。イスラエルもイラクからのミサイル攻撃に対応する必要がある。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏がその防空能力の高さを指摘する。
「イスラエルがハマスやヒズボラからロケット攻撃される場合は、アイアンドームという防空システムを使っています。が、これは弾道ミサイルを迎撃できない。ドローンや速度の遅い大型ロケットは中長距離迎撃ミサイルのダビデスリング・ミサイルで迎撃し、弾道ミサイル迎撃システムのアロー2、アロー3が弾道ミサイルを狙う。米軍もイスラエルにパトリオット(PAC-3)を配備していたが、ちょうど退役になったところに今回のイランとの衝突が起きた。そのため、米軍は今回、弾道ミサイル迎撃にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を投入。米軍が運用します」
THAADは大気圏を超えて飛来する敵の弾道ミサイルが大気圏に再突入する航程の終末段階で迎撃する最新鋭のミサイルで、実戦投入された例は数えるほどしかないとされる。
イスラエルの上空では、イスラエル軍のアロー2やアロー3、米陸軍が現地に配備しているTHAAD、さらに地中海に展開する米海軍のイージス艦から発射される「SM-3」ミサイルが、イランの弾道ミサイルを大気圏外で迎撃するという“宇宙戦争”が現実に行なわれたのだ。黒井氏が語る。
「イスラエルの迎撃システムなら性能的にもっと迎撃ミサイルが命中しているはずなのに撃ち漏らしているな、というのが率直な感想です。かねてからミサイル防衛で大量のミサイルをいっぺんに撃ち込む飽和攻撃に対応できるかが懸念されていた。今回、イランの攻撃すべてを防ぐことはできなかった」
それはトランプ大統領率いる米国を筆頭に、軍事技術にまだ進化の余地があるということだ。軍事ジャーナリストの井上和彦氏はこう語る。
「イスラエルとイランの争いが再び緊迫した場合のストライク・パッケージ──爆撃機や支援機、護衛機を何機編成するかといった具体的な内容まで米軍は既に準備をしているでしょう。状況によってA作戦か、B作戦かを判断して即時行なう備えがあるはずです」
停戦合意が束の間の見せかけである懸念が拭えない以上、新たな兵器開発もまた、止まることはなさそうだ。
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※週刊ポスト2025年7月11日号