いなくなった姉、友人の結婚相手など5編。どれも幸福感にひたれる著者からの贈り物
記録的な猛暑となっている今年の夏は、さすがに十分に冷房が効いた部屋の中で過ごしたほうがよさそう。そんな室内でのひとときを豊かにしてくれる新刊4冊を紹介します。
『パズルと天気』伊坂幸太郎/PHP研究所/1760円
「竹やぶバーニング」に笑い転げる。素人探偵の「僕」に仙台七夕まつりに竹を提供する会社が泣きつく。異物混入の竹を出荷した、その竹を見つけて欲しいと。異物というのは「かぐや姫」。この会社は千年以上、かぐや姫を育ててお返しする業務を請け負っていた。かぐや姫登場までの商店街活劇は直接読んで頂くとして、かぐや姫の“正体”がスゴい。ワォ、素敵なお転婆さん!
です・ます調の文体で優しく案内される世界名著の旅
『ギンガムチェックと塩漬けライム 翻訳家が読み解く海外文学の名作』鴻巣友季子/NHK出版/1980円
著者と同じ少年少女文学全集を読んでいたと思うと嬉しい。冒頭に『あしながおじさん』を置くのもツボ。鴻巣さんは「私の文学人生の原点」、この本との出会いが翻訳家という職業を選ばせたとし、書簡体小説としての魅力に筆を伸ばす。人の感情や暮らしを無意識に縛る法律や慣習など、その国の下部構造を知ると文学はもっと面白くなるとも。『嵐が丘』は不動産小説なのだ。
著者が創案した「体験型ミステリ」第2弾。各章末尾にある写真で、物語が変容する!?
『いけないII』道尾秀介/文春文庫/803円
1年前に失踪した姉の緋里花の足取りを追い明神の滝まで行く桃花、夏祭りの日、引きこもりの伯父さんが作った首吊り人形で肝試しをしようとした少年達、暴力を振るい続けた息子を殺したと自首してきた老父。写真を見ても真相が分からなかったので、各章の登場人物達が勢揃いし、それぞれの謎が解かれる終章が有り難い。ほの昏いムードが漂うホラー味あるミステリでも。
なぜ人は旅してノンフィクションを書くのか。忘れがたい人々の姿を記録する珠玉の随筆集
『帰る家もなく』与那原恵/小学館文庫/781円
首里の旧家生まれの父、台北の医家育ちの母。著者は母を12歳、父を17歳で亡くす。与那原氏を恵姐(けーねー)と慕う解説の星野博美さんは本書を、氏の『美麗島まで』のいわばB面とする。言い得て妙。これも是非書いておきたい。小文だが、与那原氏に長編を書くよう説いた故井田真木子氏の励まし。井田─与那原─星野とバトンが続く女性達のシスターフッドに胸が熱くなる。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年7月24日号