会見で出場辞退を発表した広陵高校・堀正和校長
《日本の高校野球大会でいじめスキャンダルが発覚》
イギリスの大手紙「ガーディアン」までもが8月11日(現地時間)にそう報じたように、広陵高校の甲子園辞退という、日本の夏の風物詩のトラブルは遠く海外でも関心を持たれている。
「海外では、高校・大学生世代のスポーツと暴力やハラスメントは一切縁がない。すぐに賠償問題に発展するからです。それだけに、日本のアマチュア野球界で起きた不祥事には理解できない部分もあるのでしょう」(スポーツ紙記者)
出場辞退を8月10日に発表した広陵高校では、同日夜、約250人の部員と保護者が出席して、緊急の「保護者説明会」が開かれた。
「選手からは何一つ質問もなく、いつも通りきちっとしたあいさつで終わりました。目に涙をためていた生徒はいたと思うが、声を上げたり、体を震わせたりというのはなかった。彼らが気持ちを制御して臨んでくれたと思う」
「保護者の方が我々の意に同意してくれている様子がうかがえました」
堀正和校長は、説明会後にそう明かしていた。ただ、長く高校野球を取材するスポーツライターは、「質問や異を唱えられるわけがない」と話す。その背景には、野球強豪校特有の「進路」を巡る問題が見え隠れするという。
「そもそも甲子園に出てくるような高校球児は、そこに至るまでに家族で厳しい選択の連続を強いられてきたケースがほとんどです。強豪リトルやシニアチームへの入団では、シビアなセレクションがあり、入ってからは当番、車出し、監督さんの接待など、積極的に家族の関与を求められ、チームへの忠誠心や自己犠牲の精神を植え付けられます。
高校選びでも親御さんからすれば、経済的な利得、甲子園出場、プロ野球選手になるという夢の実現などを見据えます。そんな過程を経ていますから、勉強や学力の面は軽視されがちで野球中心の生活にどっぷり浸る。それが故に、大学進学は“野球によってしか叶わない”という現実に直面します」(前出・スポーツライター、以下同)
たしかに、有望選手ならば有名大学への推薦での進学も叶う。その後、仮に野球で大成できなくても、「有名大学の野球部所属」という肩書きは、就職活動で抜群の効果を発揮し、一流企業への道が開けることもある。
「ただ、野球部員が多く在席するマンモス高校では、有力大学の推薦枠は完全な椅子取りゲームになりますし、どうしたって監督の思し召しを気にすることになります。今回の出場辞退を受けて引退した広陵高校の3年生部員だって、進路が決まるのはこの先なわけです。そうなれば、監督はもちろん学校関係者の目を気にして、意見を言ったり、質問をしたりすることなんてできません」
あくまで部活動は、学校生活の一部であるはずだ。それが、進学や進路にまで過度に影響する構造には違和感を禁じ得ない。しかし、全国の強豪校といわれる学校の中には、「野球部至上主義」が蔓延るのが現状だ。
「広陵高校の正門をくぐると、正面玄関右手にポール時計があります。大手野球用品メーカーの『ZETT』から2021年に寄贈されたもので、野球場の芝を想起させる鮮やかな緑色と、野球ボールがデザインされています。広陵高校には、野球とは無関係の生徒もいるはずなのに、学校のシンボルとも言える位置に、野球を前面に押し出した時計が設置されている時点で、野球中心に学校運営をしている同校の“姿勢”は充分察することができますよ」
ぶつけようのない無言の怒りは、渦巻き続ける。