クマ外傷医療を長年続けてきた中永氏(中永氏提供)
本書にはさまざまな症例が掲載されているが、医学書であることから、なかには目を覆いたくなるような凄惨な患部写真もそのまま載せられている。ある70代男性は、路上でクマに襲われ、顔面中央部を眉間から両頬、上唇にかけて剥ぎ取られ、鼻がとれた状態になっている。
実はこの症例のように、「クマに襲われると顔面を損傷する確率が高い」と中永教授は言う。
「クマ同士の争いだと、クマはお互いに口を噛もうとすると言います。人間は口元が突起していないからなのか、口を使わずに腕で攻撃してくるケースがほとんど。クマは自分を大きく見せるために立ち上がり、水平方向に腕を振るので、ちょうど人間の顔の位置に当たり、相対した人は鋭い爪と強い腕力で顔をえぐられるのです。
クマ被害者の9割が顔に傷害を負っていて、片目、あるいは両目を失明した例もあります。クマの爪が折れて顔の傷口に残っていたケースもあり、それほどの力で強烈な『水平フック』を顔面に打ち込んでくる」
この70代男性はあまりに壮絶な傷を負ったが、この症例でさらに驚くのは、再建治療によって、取れた鼻が綺麗にくっついていることだ。写真上の見た目にはほとんどわからない。