読みにくかったりする部分を削るのに時間がかかった

 清に屈せず、為政者としては「信」を重んじ、公平で、民の暮らしの安定を第一に考える鄭成功の人気は高かった。皇帝から「朱」という姓をもらうが、自分では名乗らず、皇帝に即位することもなかった。

 その一方で戦況を見誤って勝機を逃し、大敗したこともある。怒りから身内へ厳しすぎる処罰をくだし、部下を困惑させたりもする。傑出した人物であることは間違いないが、決して超人ではなく。勝つこともあれば手ひどく負けもする、ひとりの人間として描かれる。

「だって人はいろんな顔を持っていますから。決してうまくいく時ばかりじゃない。生きていたら、それはいろんなことがありますよ。みずから皇帝を名乗る愚かさはなかったけど、長生きしたらどうなったかはわからないです」

 雑誌連載が終わって、単行本にするまでに7年かかった。

「鄭成功は割とキリスト教に寛大で、考え方にも似ているところがあるんです。そういう自分が興味のあるところを連載でいっぱい書いちゃって、バランスが悪くなったり読みにくかったりする部分を削るのに時間がかかりました」

 心理描写はほとんどせずに、事実を積み重ねて歴史を描く。それだけに、本の最後の、鄭成功一族を滅ぼした施琅が、墓前で述懐しながら流す涙に心を揺さぶられる。

 広い中国を舞台に、複雑な歴史を描く大長篇を完成させるのは大変な仕事でしたか、と聞くと飯嶋さんは「楽しかったですよ」と答えた。

「いつもなら『なんかしんどいな』と思うのに(笑い)、これを書いているときは知らないことばかりで、その都度、調べてわかっていくのが楽しかったですね」

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2025年9月25日・10月2日号

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