そして、“対話シアター”では、当日会場の150人の中からランダムに選ばれた一人と、スクリーン越しに初めて出会うもう一人が、演出なしでリアルに対話する。テーマとなる「問いかけ」は万博開催期間中の184日間毎日変わるという。たとえばある日は「これまでの人生で目に映った、いちばん大きい景色はなんですか?」だった。
脚本なしの“生身”のライブだからどんな展開になるかわからない。対話の時間は10分。まだ会話が続いていてその先の話が聞きたい、というところでも、スクリーンが暗転し容赦なく終了となってしまう。そして、会場スタッフからの「ただいまの対話に答えはありません」といった一言があって終わる。
だから時には、「なんだかわからなかった」といった感想をもつ人がいるかもしれない。ただ、同じ回でもそんな人がいる一方、涙を流している人がいたりするという。
「ほぼ毎日、200回以上来ているという方がいらっしゃるんです。最初の頃は『なんでこんな回やねん。誰も何も語ってない』といった文句を書かれていたようなのですが、最近はスタッフに『おもしろくないと思う回も意味があることがわかってきたよ。閉幕までに300回めざしてる』と話されていたそうです」
対話が上手にできるのは“話せる人”より“聴く耳を持っている人”
河瀨さんに聞いてみたかったのは、
「対話する二人は、ほんとうに初対面なんですか?」
スクリーン上の一人と会場から選ばれたもう一人は自己紹介も挨拶もなく、対話が突然始まる。それなのに、以前からの知り合いのように、なめらかに対話が続いていくのだ。
「はい、もちろん初対面です。スクリーン上の話者は、募集をしてワークショップを受けた約100名が交替に登場して、敬語を使わない、自己紹介をしない、テーマそのものを語らない、といった決まりごとに沿って対話を進めます。敬語を使わないのは敬語だと話がなかなか深くならないからなんですよ」
緊張してつい敬語になってしまう人もいるというが、確かに、こんな場合、敬語だと距離を作ってしまうのかもしれない。では対話が上手とはどんな人なのだろう。
「実際に万博が始まって回を重ねて感じているのですが、結局、対話が上手なのは聴く耳をもっている人。もちろん、経験値があってエピソードを持っている人は話はできますが、どれだけ饒舌に話せても、自分本位の語りでは“対話”ではないですよね。相手の言葉をどれだけ聞けるか、その奥に何が隠されているか見える人、そしてその後をつなぐ展開として言葉を出せる人、なんだと思います」
10分の対話で人生が変わることさえある、と河瀨さん。