なぎらさんが忘れららない旅先の味とは…?

二度と会えない沖縄のテビチ

 スマホで調べてから出かけ、店に入った後はだんまりでスマホを見ている人たちと、自分の勘を頼りに入った店によく馴染み、会話ひとつをつまみにできる人たちと、大きく分けて2種類あるとして、読者諸兄姉、あなたはどちらを希望するだろう。土地勘もない旅先ではスマホで調べる派と飛び込んでみる派の違いは顕著になると思われる。ちなみに私は、飲み屋街をぶらついて入る店を決めたいタイプだが、なぎらさんの旅酒はいかなるものだろうか。どんな経験をお持ちだろうか。

「釜石の港に5、6軒の飲み屋が軒を連ねていた。漁師が行くような店に見える。扉を開けると、カウンターの中におばちゃんがいて、奥に漁師風の男がひとりいる。いいですか? と訊くと、どうぞ、どうぞ。店に入って、酒と刺身を一品頼む。魚のいい街だ。これで十分、うまい。旅ですか? 東京から? そう、ご苦労様です……。そんな会話もつまみになる。偶然入った店なのに、ああ、この街に来たな、と思った。嬉しかったな。あんな店に出会いたいという願望は、今もあるよ」

 旅先の味が忘れられなくなることもある。街の名も店の名も忘れているのに、いつまでも記憶に残る味だ。

「沖縄に仕事で行って、夜、少し遅くなってね。店を閉めようとしているところで、ちょっと飲ませてくれと頼んだ。いや、もう閉まっていたのを、開けてもらったのだったか。おでんなんだけど、豚足が入っているのよ、テビチってやつ。こんなうまいもんがあるのかっていうくらい、うまかった。店の名前も忘れてるんだけど、あの味は忘れない。それで、次に沖縄へ行ったときにも、また別の店で頼む。でも、出会わないんだよ。何度頼んでも、あの味じゃない。二度と出会えない」

 旅先でのすばらしい出会いは、偶然の度合いが高い分、希少価値があり、記憶の底に留まることが多い。その思い出が、土地の名前、たどり着くまでの列車の名前を聞いただけでどこからともかく湧いてきて、旅へのノスタルジーを掻き立てることがある。そして、また見ぬ地で味わう酒を求めて、新たな旅に出たくなる。

 旅先の宿に荷をほどき、身軽になって、このあたりが飲み屋街かと目星をつけたあたりを、まずは歩く。さて、どの店を選ぶのか。この道50余年のなぎらさんは、何を頼りに、ここと決めるのか。

「あのねえ。眼力っていったって、こればかりは何とも言えませんね。ひとつ言えることはね。素直な気持ちになって飲み屋を探すことだよ。邪念があってはいけない。素直な気持ち。それでどうなるかっていうと、いいねえ! ということもあるし、大失敗だな、ってのもある」

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