スターリンの圧政に苦しんだウクライナの人々はヒトラーを解放者として歓迎した。配られるナチ・ドイツの旗を我先にと手にとる人々(C)NHK
『映像の世紀 高精細スペシャル ヨーロッパ2077日の地獄』の概要
●第1部 ドイツ国民は共犯者となった 1939-1940
(初回放送日:2025年7月21日)
第二次世界大戦の開戦から1年余りのドイツの快進撃と、次第に戦争の“共犯者”となってゆくドイツ社会の様子を描く。長期戦を覚悟した対仏戦に予想外の短期間で勝利し、小躍りして喜ぶヒトラーの姿が映し出される。高精細化により、ベルリンに凱旋したヒトラーの歓迎パレードを、山荘にいるはずの愛人エヴァ・ブラウンが建物の一室から撮影していたことが判明した。ドイツ軍によってドーバー海峡に面したフランスのダンケルクに追い詰められ、孤立した英仏連合軍40万人。その救出を目指した「ダイナモ作戦」に多くの民間船も参加した様子が鮮明な映像で甦る。
●第2部 独ソ戦悲劇のウクライナ 1941-1943
(初回放送日:2025年7月28日)
1941年6月、ドイツがソ連に宣戦布告し、独ソ戦が始まった。第2部は、その後2年余りの戦いで主戦場となったウクライナの悲劇を中心に描く。首都キーウはまずは敗走するソ連軍に、その2年後には敗走するドイツ軍に破壊され、2年で2度焦土化した。第二次世界大戦でのウクライナの犠牲者は800万人に上り、当時の人口の20%に当たる。ドイツ占領下でウクライナのユダヤ人がキーウ郊外の峡谷バビ・ヤールで大量虐殺される様子を生々しく伝える。高精細化により、ドイツの宣伝相・ゲッベルスの「総力戦演説」に戸惑う聴衆もいたことが判明した。
●第3部 国民を道連れにした独裁者 1944-1945
(初回放送日:2025年8月4日)
1944年6月の連合国軍によるノルマンディー上陸から1945年4月のヒトラー自殺、翌月のドイツ降伏までを描く。上陸作戦が成功してドイツの敗色は濃厚となり、部下は降伏を進言するが、ヒトラーは受け入れない。戦争終結のための暗殺計画も失敗し、ヒトラーの猜疑心はますます強まって他人の意見を聞かなくなり、ドイツ国民を道連れに破滅への道を突き進む。1944年8月、パリは解放されたが、ドイツ軍の残党が公衆の面前で射殺され、ドイツ人男性と関係を持っていたフランス人女性が公衆の面前で頭を丸刈りにされた。戦争が憎しみと暴力の連鎖を生んだことを残酷に物語る映像だ。
1945年3月20日に撮影された生前最後の映像の中で、ハンカチを握るヒトラーの左手は震え続けていた。ニュースではこのシーンは削除された(C)NHK
取材・文/鈴木洋史
※週刊ポスト2025年10月17・24日号