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森絵都氏『デモクラシーのいろは』インタビュー「人間は知ることでしか前に進めないし、その辛さを経て強くなっていくのが大事」

森絵都氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

森絵都氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

 時は日本がGHQの占領下にあった1946年11月。森絵都氏の6年ぶりとなる新作長編『デモクラシーのいろは』は、4人の若き日本人女性が東京・下落合の某子爵邸に集められ、半年間、民主主義について寝食を共にして学ぶという、いかにもありそうな試みを、史実と史実のすき間に見事潜り込ませてしまう。

 物語はその教育係を任された日系人通訳官〈リュウ・サクラギ〉の視点で進み、アメリカ育ちの日系二世として屈折した思いを抱える彼自身、戦勝国が敗戦国にイデオロギーを〈絶対的な善〉として植え付けることに違和感があり、〈なぜ、わたしが?〉と民政局のケーディス大佐に真意を質したほど。すると大佐は言った。

〈これは偉大なる挑戦なんだ〉〈被験者たちはおそらく多くの混乱にさらされることだろう〉〈君はその感情を知っている〉〈だからこそ適任なんだ〉〈民主主義に正解はない。君が思うところのアメリカン・デモクラシーを教えてやればいいさ〉

 こうしてそれぞれ事情や屈託を抱えた先生と生徒による、何もかもが手探りの学びの時間が始まった。

「戦後といえば焼け野原と一言で括られてきた時代に興味があったんですね。調べてみるとまさにカオスで、物も秩序もない中で人々はバラバラに生き残りを図っていた。同世代でも年が一つちがうだけで状況はちがう。いかに人々が別々の戦争や戦後を生きていたかということに気づかされました。そして資料を100冊ほど読んだところでふと、民主主義をテーマにしたらどうかと思ったんです。

 この時期、日本では軍国主義から民主主義への価値観の大転換が起き、なのに戦後80年の今なお、私達は民主主義のことをよく知らなかったりもする。だからこそ民主主義とは何なのか、改めて問いを立ててみたい気持ちもありました」

 集められたのはいずれも戦争に人生の変転を強いられた20歳前後の女性達。訳あって女子学習院を中退し、銀行勤めをしていた元男爵家出身の〈真島美央子〉や、静岡の農家出身で挺身隊として奉仕中に家族を空襲で亡くし、戦後は横浜でメイドをしていた〈近藤孝子〉。夫が戦死し、実家の洋裁店も職人の父親もろとも空襲で失った〈沼田吉乃〉や、青森から家出同然に上京し、上野で監督役の〈ミラー少佐〉に見出されたという〈宮下ヤエ〉。さらに女中の〈クニ〉に至るまで、彼女達の必要最低限で虚実入り混じる履歴書の行間を、私達読者もまたリュウ共々少しずつ知ることになる。

「リュウを二世にしたのは、距離が欲しかったんですね。この時点で彼女達はまだ〈一億総被害者〉的意識の只中にいて、それはそれで時代の限界だったと思います。ただし、それが真珠湾攻撃に日常を奪われたリュウには〈加害者意識の不在〉に映る。彼女達を冷静に見つめられるその視点が欲しかったんです」

 加えて出色なのが、この実験の発案者でもある子爵夫人〈仁藤鞠子〉の存在だ。箱根で齧歯類の研究に耽る夫と実質別居状態にある彼女は、華族制廃止が噂される中、この贅を凝らした別邸を守るためでもあろう、民政局との昼食会で〈然るべき条件さえ整えば、日本人にも民主主義を習得することはできると思います〉〈まずは安定した衣食住が必須です〉と言って別邸の提供を進言。これを歓迎したケーディスが衣食の提供を請け合い、自身の通訳の友人だったリュウを教育係に抜擢した。ところが肝心のリュウと鞠子が水と油で、仁藤邸では事あれば衝突や騒動が勃発するのである。

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