2020年6月、4人がクロスボウで撃たれた兵庫県宝塚市の現場付近を調べる捜査員(共同通信)
母の遺体が邪魔だった?
叔母に電話したところ、想像以上に早く来ることがわかり、母親よりも先に叔母の殺害に計画をシフトする。母親への計画と同じように、弟の遺体に気を取られているスキに撃とうとしたが、自転車のヘルメットを被ったままだったため、側頭部以外を撃たざるを得なかった。
矢は叔母の首を突き抜けていたが、さらに追撃するでも介抱するでもなく放っておいた。「母親殺害の方が優先のため」と被告人は供述するも、叔母については第2回公判で読み上げられた供述調書内で「お前は助けたる」「あとで救急車呼んだるから黙っとけ」などと言われたと供述しており、叔母への殺意の強さは被告人のなかで揺れていたようだ。
母親にはLINEで「早く来い」と送った。殺害を早くしたい思いでなく、いつ来るかわからないためということであった。
母親が家に入り、側頭骨を撃ち殺害する。犯行の一番の動機としていた母に対する襲撃であったが、これまで通りに淡々と、むしろ言葉数は少なく、その殺害時の供述を終えた。
その後、被告人は母親の遺体をリビンクに移動させた。
検察官「どうして移動させたのですか」
野津被告「邪魔だったんで」
検察官「何に邪魔だったのですか」
野津被告「荷造りに」
最初から犯行後は自首をするつもりだったという被告人。動機の一番の要因だったという母親の遺体ですらも、自己の目的の遂行のために「邪魔」と表現するなど、もはや無関心のように聞こえた。
野津被告の母親は別居中、祖母に宛てて息子たちを心配する手紙を送っていたという。しかし被告人は母親や家庭環境への恨みについて、改めて強弁するのだった——後編記事で詳報する。
(後編につづく)
◆取材・文/普通(ライター)