兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右/時事通信)
2020年6月、兵庫県宝塚市の自宅において男がボーガン(クロスボウ)を撃ち、祖母・母・弟の3人を殺害し、叔母に重傷を負わせた事件。殺人と殺人未遂の罪に問われた野津英滉被告(28)の裁判員裁判第3回公判が10月2日、神戸地裁(松田道別裁判長)で開かれた。
第2回公判の様子を伝えた前回記事『母、祖母、弟が次々と殺され…唯一生き残った叔母は矢が貫通「息子は、撃ち殺した母をリビングに引きずった」』では、生き残った叔母が証言した「壮絶過ぎる事件の様子」について伝えた。法廷では、被告人が独特な家庭環境で成長し、独自の苦しみを覚えながらの犯行であったことが主張された。
第3回公判では、検察官、裁判官、一般から選ばれた裁判員からの質問が行われた。そこで明らかになったのは、自身の行為を正当化していることに何も疑いを持たない被告人の姿であった。裁判ライターの普通氏がレポートする。【前後編の前編】
寝てる祖母は撃てなかった被告人
検察官の質問のために証言台に向かう被告人。
身体が凝り固まっているのか精神疾患の影響からなのか、自力歩行は可能ながら、ゆっくりぎこちなく歩く。刑務官が引いた証言台のイスに座るも、自ら座席を整える様子はない。首をほぼ真下に向けたまま、ぽつりぽつりと答えていく。
検察官は犯行状況について、状況を詳細に聞くことで、その際の心情をはかっているように感じた。
祖母を殺害したのは午前5時ごろ。供述調書によると、前日に被告人が就寝したのは午後9時ごろで、起きたのは午前2時ごろだったという。
祖母の部屋へ行き、ベッドで寝ている様子を確認した。被告人としては、祖母が横の壁側を向いて、側頭骨が上向きになるタイミングを見計らっていたというが、寝室ではその機会が訪れなかった。
当時の様子について、このように供述する。
野津被告「何べんも起きて、こっちを見てきやがったんで、ちょっと難しかったですね」
前日に読み上げられた被告人の陳述書で、祖母のことを「嫌がらせをしてくる」「こちらが気付くまでずっと見続けてくる」「『何見とんじゃ』と言っても『見てない』と言う」などと表現していた。この日も果たして祖母は深夜2時に起きて被告人を見ていたのか。今では真相はわかりようがない。
その後、祖母がトイレに入った物音を聞きつけると、ドアを開けたまま用を足す癖を利用し、2~3メートルの距離に近づいて左側頭骨を撃った。