兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
2020年6月、兵庫県宝塚市の自宅において男がボーガン(クロスボウ)を撃ち、祖母・母・弟の3人を殺害し、叔母に重傷を負わせた事件。殺人と殺人未遂の罪に問われた野津英滉被告(28)の裁判員裁判第3回公判が10月2日、神戸地裁(松田道別裁判長)で開かれた。
3人の家族を冷酷に撃ち殺した野津被告。公判では、反省や罪悪感などが全くないかのような発言が続いた。一方、弁護側は被告人の独特な生活環境で生まれた母への恨みや、独自の苦しみを覚えながらの犯行であったことを主張した。
第3回公判では、被告が最も強い殺意を持っていた母親への思いについて、検察官や裁判員が聞いた。被告人の言葉にはどのような思いが隠されているのか──裁判ライターの普通氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
家族は「殺されるに値する」
事件の動機について検察官から確認する。
前日の被告人の陳述などによると、ストレス環境下により腸や脳がコントロールできなくなり、日常生活がままならなくなった。自殺を考えたものの、「家族が周囲に都合よく言うだろう」と思った。そのため苦しみの原因である家族を殺害し、周囲に自分の思いを知ってもらった上で死刑にしてもらいたいというものであった。
自らの不幸の一番の原因は母親であると供述する被告人。しかしその母親も、被告人ら子どもが小さい頃に離婚をして親権を得てからは、自身にも障害がある中で、自己破産、生活保護の受給などを経て、障害を持つ被告人とその弟を育ててきた。
検察官「母親が苦労している様子を感じたことはないのですか」
野津被告「苦労というより、ひたすら逃げているようにしか見えなかったですね」
検察官「別居中に母親から祖母に送っている手紙の中で、あなたや弟を心配する気持ちを綴っているのは知っていますか?」
野津被告「読まれたかもしれないが自分では読んでない。読む気すらないんで」
検察官「この手紙の内容は、愛情を持っているとも読めますが」
野津被告「なかったと思います、特に僕には」
譲らない被告人。叔母の供述にもあったが、母親の養育も十分ではなかったことは、そうなのかもない。
検察官「母親はもう自分の思いを話せない。でも、あなたは一方的に話せる。このことについて思うことはありますか」
野津被告「まったく何も」
検察官「小さい頃から不満があると暴力を振るっていたようですが、それについては」
野津被告「当然の報いだと」
検察官「自分に問題があるとは」
野津被告「まったく思わない」
事件から5年経った現在でも、家族については「殺されるに値する」、「躊躇は特になかった」などと供述し、検察官からの質問を終えた。