現役最後の対局を終えた青野照市九段(2024年6月13日撮影、共同通信社)

「塾生」時代に“将棋漬け”の生活を送った

──青野九段は、中学卒業時に奨励会に合格され、その後は高校に進まずに「塾生」になられたのですね。

 師匠の廣津久雄八段が将棋連盟の専務理事だったこともあり、「塾生」となって東京・千駄ヶ谷の将棋会館に住み込んだんです。「塾生」とは、プロ棋士になる前の奨励会員の中で、将棋会館に住み込んで棋士を目指した者を言います。将棋会館は、当時は木造2階建てで、奨励会の中で格下の塾生は1階の大部屋、格上になると2階の洋室に移ることができる。そんな世界でした。

──塾生はそこに住み込んで何をするのですか?

 まあ、体のいい使用人です(笑)。掃除、対局の準備や、食事の支度、おやつの買い出し、泊まり込む棋士の布団の上げ下げ、買い物などの雑用。夜は、娯楽室で麻雀をする棋士たちのための準備もあります。やっと休めると思って眠りについた途端、「蚊取り線香ないか?」とたたき起こされたことも。塾生は住み込みで3食出るので、お金には困らなかったのですが、心が休まることはなかったですね。そんな生活で、ストレスから胃腸を壊してやめていく仲間も多かったですよ。

──当時は、師匠の家に泊まり込んで指導を受ける「内弟子制度」もありましたね。

 内弟子は内弟子で、師匠の家に住み込んでずっと厳しく指導されるから、精神的にきついこともあったようです。円形脱毛症になる人もいました。でも、弟子を家に住まわせてまで指導しようと考える師匠は、心根の優しい人が多かったですね。今ではもう内弟子は1人もいませんし、塾生も1980年頃にはなくなりました。自宅や寮から将棋会館に通って修業する人ばかりです。

──4年間の塾生生活。つらさと楽しさ、どちらが勝っていましたか。

 きついことは多かったけれど、対局後の感想戦は聞き放題でしたし、将棋を指す相手にも困りませんでした。将棋漬けの生活ができたという意味では、ありがたい経験でした。

──奨励会では、6級から三段まで一定の成績で昇級していき、三段リーグで勝ち上がった2名だけが四段(プロ棋士)になれる。プロになれるのはごく一握りですね。

「天才」と言われて奨励会に入っても、結局プロになれずにやめていく子は多いです。奨励会員の7人に1人、いや10人に1人しかプロになれないと言われていますから。

──まさに狭き門ですね。

 しかも奨励会には、年齢制限がある。私の時代は31歳でしたが、今は26歳までに四段になれないと、退会しなければいけません。「小学生で自分の道を決めて、25歳までに芽が出なければ終わり。つまり棋士の寿命は25歳までだ」と言う人もいます。

──そのプレッシャーは、当時の青野九段も感じていましたか。

 もちろんです。奨励会時代は、対局中に駒を指す手が震えることもよくありました。私の場合、中卒で入門したわけで学歴も全部捨ててきていますから、もしプロになれなかったら生きていく道がないわけです。実家は佃煮屋で、親は「ダメだったら家業を継げばいい」と思っていたようですが、私はとても耐えられなかったでしょう。「将棋がダメだから戻ってきた」と見られながら生きるなんてあり得ない、と。日本は学歴社会ですし、プロ棋士になれなければ、日本を飛び出して成功するまで帰らなかったかもしれません。

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