11月18日、中国のSNSで広まった動画。左が金井正彰・外務省アジア大洋州局長、右が劉勁松・中国外務省アジア局長。金井氏が劉氏に頭を下げたように見える=[中国国営テレビ電子版より](時事通信フォト)
日本側にとってマイナスに映ってしまったのは、金井氏の姿勢と表情にもある。少し肩を落とし俯き加減で出てきた金井氏の表情は、口元をしっかりと結び厳しかった。顔に赤みが差していた劉氏とは対照的に金井氏の顔は白い。劉氏に立ち止まられると、カメラの方に身体を向ける間もなく壁を背に立ち止まる。胸を張り身体を揺らすことなく正面を向いて堂々と立ち、金井氏を見下ろす劉氏と、横を向いたまま頭を下げ視線を落とし、唇を真一文字に引き締めている金井氏。廊下に立たされ叱られている学生と叱責している教師のような構図だ。中国にとってはこの場面をメディアに流すことで、日本より優位に立っているように印象づけられことだろう。
この時、金井氏が劉氏にお辞儀をしている、謝っているように見えたのは、金井氏が2人の間に入った「通訳の言葉に耳を傾けているから」だという解釈がされている。通訳の身長が金井氏や劉氏より若干低かったこともあり、金井氏が頭を低く通訳の口元に耳を寄せている姿が、劉氏に頭を下げているように見えてしまったのだ。金井氏がカメラに気付いて正面を向けていれば、避けられた姿だった。
局長級の会談を中国メディアが写真や動画付きで報じるのは異例だといわれ、木原官房長官によるとこの映像は「日本側としかるべく調整されない形でプレスアレンジが行われた」もので、中国側に対してしかるべく申し入れを行ったという。だがこのような情報操作に大きな効果があるとわかれば、申し入れされたところでやらない手はない。日本側が気をつけるしかない。
様々な会見や会談の際、日本人は会見や会談が終わればそこで終わりという意識が強い。会見場や会談の場に向かう時は、誰もが神経を尖らせ周囲を見渡しカメラを意識するが、話し終わって挨拶をすませればすべて終了だと思っている場合がほとんどだ。檀上を降り、会見場を去るその時まで、誰かが見ていること、カメラが回っていることを忘れている。一旦終わったと思っているので、緊張が緩み警戒心も解かれてしまう。仕草や表情に注意が向かなくなり、本音や素が出やすいのもこの時だ。
仕草やボディランゲージは自分の印象だけでなく、時に国家間の印象さえも操作する。官僚も政治家も自らが無意識に見せているそのプラスとマイナスについて、もっと注意を払ったほうがいいだろう。
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