席亭は男のロマンと夢(イラスト/佐野文二郎)
放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、現代の“東京三大席亭”について。
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たくさんの人間を束ねて、ひっぱっていき何かを為す。これが昔から「男の夢」といわれてきた。よく聞かされてきたのは男の夢を叶えるのはこの世界三つあると。「野球の監督」「映画監督」そして「オーケストラの指揮者」。
これをやったら気持良くて、もう他の仕事なんか何もやりたくなくなると聞かされてきた。
私が思うに芸能の世界では、江戸の昔より演劇、演芸を取り仕切る席亭(今の言葉ではプロデューサーか)がそうだと思う。ただのプロデューサーではなく席亭は小屋(劇場)を持っていてすべての顔付け(キャスティング)も自分で出来る男のロマンと夢である。
小屋持ちではないがここへ来ていい席亭が次々誕生している。まったく無名で世間も全然相手にもしてくれない演芸関係者が、私にそっと「いまの東京には三大席亭がいますネ」「エッ誰?」「毒蝮三太夫、徳光和夫、そして高田文夫です」。その意味を考えてみたら私も思い当たるふしが。
今でもTBSラジオで喋っているが、日芸の私の大先輩であり、談志の無二の親友であった毒蝮三太夫、89歳である(談志、長嶋茂雄と同い年)。演芸好きが高じて定期的に席亭として「マムちゃん寄席」を開催。先日なんと第20回を迎えた。20回の時もいい顔付けで三遊亭小遊三、玉袋筋太郎、ナイツ、春風亭一之輔らである。マムちゃんの人望だろう、みないやな顔ひとつ見せず(本当か)集まった。20回もやればもう立派な席亭である(誰か小屋でもプレゼントしてやれ)。
歌謡曲と野球と演芸ならこの人。こちらはニッポン放送で喋っている徳光和夫(84歳)。歌謡ショーの企画などは昔からやっているが、先日はあの長嶋茂雄氏をしのび「ミスター寄席」を企画。徳さんの音頭で集まったのはナイツ、松村邦洋、山田雅人、そしてテリー伊藤、中畑清らである。この日みなに内緒で徳光が仕込んでいたのは最もミスターに愛された男、せんだみつお。「サプライズはこの人でーす」と出て来たせんだに舞台上も客席もシーン。「休日でハローワークも休みだったからここへ来たら、何だこの静寂は」だって。凄腕の徳光席亭である。
あと一人はこの私だそうで言われてみれば今でも「オール日芸寄席」(志らく、一之輔、太田光、宮藤官九郎ら)を定期的にやってるし「文夫の部屋」ライブ(イッセー尾形、片岡鶴太郎、横山剣らゲスト)もやっている。どうです? 来年あたり三人で何かやりますか。誰が死んでもおかしくない年齢なので。
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号
