ライフ

ネットは結局テレビも新聞も「消せない」と茂木健一郎氏指摘

 インターネットの発展に、「紙の本」、「大学」、「新聞」、「テレビ」といった「旧体制側」の関係者たちは、「絶滅する」とおびえていたはずだった。だが、時代の空気は大きく変わってきたと、脳科学者の茂木健一郎氏が指摘する。

 * * *
 時代の流れが見えにくくなっている大きな要因の一つは、このところ世界の変化を促す原動力となってきた「インターネット」の社会の中における位置付け自体が、見えにくくなってきているということもあるのだろう。果たしてインターネットは社会を変えるのか、変えるとしたら、どのような方向に変えるのか、「正念場」を迎えている。

 一時期、インターネットを「隕石」に例える議論が流行した。かつて、地球上に巨大な隕石が落下して、それをきっかけに恐竜たちを始めとする多くの生物が絶滅したのと同じように、インターネットの登場によって、これまで社会の中で当たり前のように存在していた様々なものが消滅し、新しいものが建設されると予想されたのである。

 インターネットによって、大量絶滅がもたらされるという予測は、すでにエスタブリッシュされたものにかかわる人間にとっては、恐怖や不安の種だったかもしれない。「紙の本」、「大学」、「新聞」、「テレビ」。これら「旧体制側」の関係者たちは、来るべき変化の時代の足音におびえていたはずだった。

 一方、既存の秩序を破壊し、新しい世界を建築しようと願う者たちにとっては、インターネットは、希望の星のはずだった。生物は、創造のために「空白」を必要とする。第二次大戦後の焼け野原が、「復興」へ向けた「未来」の受け皿になったように、インターネットが古いものを破壊するならば、その後に自分たちが何かを建設しよう。そんな志にあふれた人たちもいたのである。

 ところが、「古いやつら」は案外しぶとかった。一時期「黒船到来」とばかりに騒がれた電子書籍も、フォーマットが統一されないなどとモタモタしているうちに、勢いを失っている。本の流通が電子化されるという時代の趨勢は変わらないにせよ、「紙の本」があっという間になくなってしまうというような「激変」がすぐ起こると信じている人はもはやいない。

「新聞が消える」という威勢の良い論調も、一時期ほど喧伝されなくなってきた。その結果、「記者クラブ」や「横並び記事」など、日本の新聞の悪弊とされてきた慣習も、そのまま温存されそうである。「テレビ」がインターネットによって脅かされるという予測も、なかなか「メジャー感」を出せないネット側のもたつきによって、過去のものになりつつある。

 新聞は消えない。記者クラブも、おそらくは存在し続ける。テレビは、メジャーなままである。電子書籍は存在感を増すだろうが、一方で紙の本も流通する。結局、「代わり映えのしない」日本が、今後もあり続けるのではないか。

※週刊ポスト2011年2月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

沢口靖子
《新たな刑事モノ挑戦も「合ってない」の声も》沢口靖子、主演するフジ月9『絶対零度』が苦戦している理由と新たな”持ち味”への期待 俳優として『科捜研の女』“その後”はどうなる?  
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
家族が失踪した時、残された側の思いとは(イメージ)
「お父さんが死んじゃった」家族が失踪…その時“残された側”にできることとは「捜索願を出しても、警察はなにもしてくれない」《年間の行方不明者は約9万人》
NEWSポストセブン
19歳の時に性別適合手術を受けたタレント・はるな愛(時事通信フォト)
《私たちは女じゃない》性別適合手術から35年のタレント・はるな愛、親には“相談しない”⋯初めての術例に挑む執刀医に体を託して切り拓いた人生
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン