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福島第一原発作業員「必要とされればまた入る」と意気軒高

 毎時2000ミリシーベルトという高い放射線、数万tにも及ぶ大量の高濃度汚染水、行く手を阻む瓦礫の山……福島第一原発では、復旧作業にあたる作業員たちに、今も次々と困難が降りかかっている。被害を拡大させた東電の責任が追及される一方で、国民の安全を守れるのは彼ら現場の技術者・作業員たちしかいない。原子力工学の専門家・石川迪夫氏が、その苛酷な現場と復旧への展望について語る。

 * * *
 原発から離れた避難地域の外側では、揮発し易い放射性ヨウ素131などの放射性物質はもう出尽くして落ち着いてきている。が、原子炉内では融点の高いプルトニウムやコバルトなどが冷却水に混入し続けている。その一部は、水蒸気に付着して放出され、質量が重いために発電所の近傍に落ち、技術者らの作業するエリアを汚染していると考えられる。

 そうした環境の中で、毎日、東電社員が300人以上、協力会社などの作業員が1000人以上、復旧に向けて奮闘を続けている。

 中でも復旧作業の主力となっているのは、現場を熟知する東電の技術者である。彼らは拠点であるJヴィレッジや福島第二原発施設内の体育館から、復旧現場の司令部がある「免震重要棟」(福島第一原発1号機に近接する2階建て建物)に結集する。一度現場に入れば日帰りはできず、3~4日間にわたり同棟内で寝起きすることになる。

 作業に際しては放射性物質から身を守るため、防護服を着て、顔全体を覆うマスクを装着する。このため、汗も拭えなければ、鼻もかめない。そういう状況で、彼らは協力会社の作業員らとともに原子炉建屋内外の瓦礫の処理や汚染水の除去、建屋内の空気浄化を目的とした換気装置の設置などの作業を指揮監督しているのだ。

 作業後、免震重要棟に戻り、付着した放射性物質の除染を終えて、ようやく彼らは防護服を脱ぐ。震災直後は電気も通わず、食事は非常食用のビスケットのようなものだけだったようだが、今では簡素ながら温かいレトルト食品を口に入れることができるようになったという。しかし、未だに眠る時は床の上の雑魚寝、風呂にも入れない状況が続いている。

 当然、疲れは澱のように溜まっており、震災直後から詰めている職員の中には、さすがに疲労の限界に達している者もいると聞く。作業員を診断した医師は「手などにちょっとした怪我が多くなった。苦労で集中力を失ってきている」と話していた。“前線”を離れても、酒を飲む気分にもなれず、かなりストレスが溜まっているようだ。

 だが、士気だけは高い。彼らの闘志を支えているのは、ひとえに「何としても自分たちの手で、この事故を収束させる」という義務感や使命感である。私も現場で復旧作業に携わっている技術者を何人か知っているが、皆そういう強い意思の持ち主だ。

 5月5日、水素爆発が起きた 1号機の原子炉建屋内に、酸素ボンベを抱えて最初に入ったのは東電の技術者らだったという。人伝ての話だが、その職員は、「心配いりません。必要とされれば、また入ります」と意気軒昂だったという。

※SAPIO2011年6月15日号

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