ライフ

石田衣良 日本人は東京電力と社員を憎むのを止めた方がいい

石田衣良氏「日本人よ、東電を憎むな」

2012年をどう生きるか。常に時代と切り結ぶ小説を世に問うてきた、直木賞作家・石田衣良さんに聞く。2回目のテーマは「震災と小説家」。(聞き手=ノンフィクションライター・神田憲行)

――3.11以降、震災をテーマにした小説がいくつか出ています。石田さん自身はどのようにお考えですか。

石田:今出ている震災をテーマにした小説はシリアスな純文学ですね。エンターテイメント小説にするには、まだしばらく時間がかかると思います。もし井上ひさしさんがご存命だったら、あの人東北出身だから、たぶん震災でコメディを書いたんじゃないかな。

僕は震災をテーマにしたアイデアは、SF、ラブストーリー、コメディの3本持っています。コメディは実際にある話を素材にするつもりなんです。

いまある地域でがれき処理で重機を運転する人たちがひとつの旅館を借り切って作業しているんですが、その旅館の一間にスロットル、もう一間にキャバクラが出来たんだそうです(笑)。

――旅館でキャバクラですか(笑)。

石田:しかもそのキャバクラの名前が「復興キャバクラ 夕顔」とかいうらしいんです(笑)。日本中から集められたガタイのいい兄ちゃんたちが昼間はガンガン重機を運転して復興させて、仕事が終わったらちょっとスロットル弾いたあとキャバクラで女の子とお酒を飲んで昼間の疲れを癒す。いい話じゃないですか(笑)。報道は「命が大事」とか絆とかばかりやってますから、小説はそこを書かないとつまんないなあと思っています。

――「そこ」とは、つまりなんでしょうか。

石田:何があっても生きている人。その中で悲しいこともおかしいことも全部あって、それがちゃんと回っていく。今は光の当て方が一方向だけで、フラットになっていますよね。絆だったり、立ち上がる人だったり。悲しみにくれる人ばかりだけではないと思うんです。

――たしかにとくに原発問題では、文化人だけでなく財界人や芸能人まで口を揃えて反原発の大合唱ですね。

石田:いま日本のインテリが立ついちばん安全で正しい場所は「反原発」と「エコ」ですから。僕自身は反対でも賛成でもないけれど、客観的に電力事情をみれば原発を残さざるを得ないだろうなあと思っています。全ての悪も危険も排除して生きていくことは不可能なのだから。

現代人は常に不安やストレスにさらされていて、そのはけ口として外部に単純な悪を設定したがる。外国ならそれが移民排斥などの民族問題になるんでしょうが、日本の場合は一部韓国や中国に向かっている以外は、今は東京電力や政府に向かっているんじゃないでしょうか。でも地震が起きる前はみんな、普通にテレビをみたりゲームをしたりして原発の恩恵にあずかっていたわけですから。

正当な批判はすべきなんですが、「会社を潰してしまえ」とか「社員の給料をゼロにしろ」とか、無茶苦茶なことをいう人もいる。

でも簡単に人を憎むのは止めた方がいいですよ。心の機構がそうなってしまうと、次からは人を憎むことでしか自分の確認出来なくなってしまうから。

関連キーワード

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン