国内

夏のかゆみ止め薬「ムヒ」メーカー 冬には何をやっていたのか

「ムヒ」といえば、夏の商品のイメージがあるが、実際は乾燥からくるかゆみを抑える「ムヒソフト」、指のひびをケアする「ヒビケア」、そして足のひびをケアする「ヒビケアFT」という「冬にもMUHI」の3商品が冬の主力として存在する。ムヒを製造する池田模範堂の池田欣史専務に、失礼ながら「昔は冬に何をやっていたのですか?」と聞いてみた。以下、池田氏の話である。

* * *
「冬にもMUHI」というCMを今OA中ですが、多くの人から「意外でした…」と言われます。やはり、ムヒといえば、夏のかゆみ止め薬のイメージが強いのでしょうね。そして、同様に聞かれるのが、「御社の社員は冬に何をやっているの?」ということです。

私が入社する前の話を聞いてみると、機械の整備、掃除ばかりやっていたそうです。でも、さすがにそればかりやっていても面白くない――ということで、多角化を考えたようです。多角化の中で、ひとつ考えたのは、ジュースとかジャムの製造です。富山に池田果樹園という場所がありますが、初代の社長が60歳くらいで会社を私の父親に譲り、果樹園の園長をやり、リンゴ、ブドウ、柿を作っていたのです。

それらの一部を贈答用にし、お中元、お歳暮などで送っていたのですが、段々と商売っ気が出て、富山空港や料亭などに卸すようになりました。結局、自分のところの果樹園では足りず、山形などから果物を仕入れ、冬場暇な人用の仕事としていた時期もあるようです。仕事内容といえば、リンゴの芯抜きや、皮むきなどでしょうか。

あとは、介護機器を作っていたこともあります。とにかく商売のネタを探して来い、という風潮があり、介護機器、機能性食品、自衛隊向けの迷彩スカーフ、虫除けスカーフ、競馬協会にウレタンフォームの脊髄を守るものを作ったりしました。ニーズがあるところに対し、なんでもかんでも手を付けたといって良いかもしれません。

大体、夏場だけで商売は終わっていたのですね。8月くらいになると、夏場の生産は止まっていました。富山ですから、田んぼ持ちの従業員も多いので、10月とかになると、会社を休んで農作業をしていたりした。でもね、当然、医薬品ラインが空いているので、そういう空いている期間を埋めるような商品があった方がいいのは間違いないんですよ。それでも商品を出せない時代が続いていました。

現在、冬物の柱である「ムヒソフト」は発売開始から16年が経ちました。池田模範堂100年の歴史のうち、80年くらいは夏だけ稼働していました。冬は、工場にいなかったので、従業員の気持ちは語れませんが、どんな日々を過ごしていたのでしょうか。暇で苦しかったのではないかと思います。

従業員をパートにすればよかったかもしれませんが、前の経営者は「医薬品を作るには、教育された人が最後の最後まで、責任もって品質管理をしなくてはいけない。手足だけあればいいってことではない。人を切ったりしたら品質管理ができない」という考えを持っており、従業員は正規社員であることを基本としていました。まぁ、夏場だけで十分潤うような商売をやっていたわけであくせくする必要がなかったというのが本当のところでしょうか。

ただし、冬に仕事がないため、商品開発をするために入ってきた人にとっては「事業領域を拡大しよう」という気持ちになるのです。

そこで、ムヒのブランドを使い、次に何ができるか、ということを考えました。出た答えは、「かゆみ」という領域でアイディア提案をし、冬場の乾燥によるかゆみをどうにかしようということでした。そちらの1つの選択として、開発したのがムヒソフトです。

ただ、「冬場のかゆみ」というものは、虫刺されではないだけに、ムヒのラインナップとしてはありえませんでした。そこで、考えを「かゆみを科学するのがムヒである」という方向に持っていくことにしました。

そもそも、冬場に売る商品があまりなかったのですね。いや、冬場にも商談できるきっかけとして、「アンパンマンシリーズ」という商品群がありましたが、ムヒソフトを発売して以来、冬場に本格的に入っていけるようになりました。やはり、この市場にどっぷり入っていくと、冬場の商材って色々あることが分かるのです。

一品目だけを武器に話をしていくと、商談相手は私達を一品目だけのメーカーとしてしか見てくれません。競合は何種類も、何カテゴリーも持っている方が発言力が大きい。一品目だと、「そんな、大々的に棚をあげるわけにもいかないよ」と言われてしまいます。

だからこそ、拡大していこう、という指向性を持って、商品開発をすることになったのです。それ以前は悲哀を感じていましたよ…。夏は、フルラインナップがあるため発言力がありましたが、冬にも何かできないかな…という寂しさを感じていました。その結果、冬のヒビを治癒する「ヒビケア」が完成したのです。

乾燥肌のトラブルの中でも、冬の「かゆみ」「ひび」と分けることができるようになりました。ムヒソフトと共通の「冬の肌ケア」というコンセプトを持ったうえで、池田の冬場のアプローチを単品よりも、2品、3品と広げていくことで、商談もうまくいくようになりました。

現在、夏と冬の売上比は6:4くらいになっていますよ。いや、もちろん売れる個数は夏場の方が圧倒的に多いのですが、ひとつ398円とか498円なわけです。でも、ヒビケアは15gで1280円するだけに、金額では末端で6:4くらいになっているのです。

あと1、2品目を加えれば、5:5になるかもしれませんよ。そうなれば、流通から「池田模範堂は冬も大きくなったね」と言ってもらえるようになります。早いうちに、フィフティーフィフティにもっていこうと思っています。

関連キーワード

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
「2024年に最もドッキリにかけられたダマされ王」ランキングの王者となったお笑いコンビ「きしたかの」の高野正成さん
《『水ダウ』よりエグい》きしたかの・高野正成が明かす「本当にキレそうだったドッキリ」3000人視聴YouTube生配信で「携帯番号・自宅住所」がガチ流出、電話鳴り止まず
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【20歳の女子大生を15時間300万円で…】男1人に美女が複数…「レーサム」元会長の“薬漬けパーティ”の実態 ラグジュアリーホテルに呼び出され「裸になれ」 〈田中剛、奥本美穂両容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
国技館
「溜席の着物美人」が相撲ブームで変わりゆく観戦風景をどう見るか語った 「贔屓力士の応援ではなく、勝った力士への拍手を」「相撲観戦には着物姿が一番相応しい」
NEWSポストセブン
(左から)「ガクヅケ」木田さんと「きしたかの」の高野正成さん
《後輩が楽屋泥棒の反響》『水ダウ』“2024年ダマされ王”に輝いたお笑いコンビきしたかの・高野正成が初めて明かした「好感度爆上げドッキリで涙」の意外な真相と代償
NEWSポストセブン
前田亜季と2歳年上の姉・前田愛
《日曜劇場『キャスター』出演》不惑を迎える“元チャイドル”前田亜季が姉・前田愛と「会う度にケンカ」の不仲だった過去
NEWSポストセブン
フィリピン人女性監督が描いた「日本人の孤独死」、主演はリリー・フランキー(©︎「Diamonds in the Sand」Film Partners)
なぜ「孤独死」は日本で起こるのか? フィリピン人女性監督が問いかける日本人的な「仕事中心の価値観」
NEWSポストセブン
timelesz加入後、爆発的な人気を誇る寺西拓人
「ミュージカルの王子様なのです」timelesz・寺西拓人の魅力とこれまでの歩み 山田美保子さんが“追い続けた12年”を振り返る
女性セブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《私が撮られてしまい…》永野芽郁がドラマ『キャスター』打ち上げで“自虐スピーチ”、自ら会場を和ませる一幕も【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
(SNSより)
「誰かが私を殺そうとしているかも…」SNS配信中に女性インフルエンサー撃たれる、性別を理由に殺害する“フェミサイド事件”か【メキシコ・ライバー殺害事件】
NEWSポストセブン
電撃引退を発表した西内まりや(時事通信)
電撃引退の西内まりや、直前の「地上波復帰CMオファー」も断っていた…「身内のトラブル」で身を引いた「強烈な覚悟」
NEWSポストセブン
女性2人組によるYouTubeチャンネル「びっちちゃん。」
《2人組YouTuber「びっちちゃん。」インタビュー》経験人数800人超え&100人超えでも“病まない”ワケ「依存心がないのって、たぶん自分のことが好きだから」
NEWSポストセブン