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六本木ヒルズ 最後まで頑なだった「反対の会」説得の経緯

 森ビルを売上高2091億円の大企業に育てあげた森稔氏(享年77)。森氏は、理想の街づくりに邁進するなかで、超高層ビルへのアレルギーを払拭し、庭つき一戸建てへの執着を断ち切りたいとアピールした。経済紙記者はいう。
 
「森さんは、狭い東京だからこそ、土地を有効活用する高層ビルが必要だと力説していました。これが“垂直の庭園都市構想”です」
 
 森氏は赤坂六本木地区のアークヒルズプロジェクトだけでは満足しなかった。次の目標となったのが六本木6丁目、現在の六本木ヒルズだ。
 
 1982年に、テレビ朝日の本社建て替えを打診された森氏は、この約1万坪の土地だけでなく、周囲をも含めた再開発を提案する。しかも、そこには敷地南側の崖下の窪地にあった住宅街が含まれていた。アークヒルズの約2倍、11ヘクタールという規模だけに、世評は「無理だ」と否定的だった。
 
 都内の建築士は、このプロジェクトが森ビルとテレビ局との共同作業で推進された点を評価する。
 
「テレ朝の本社の建て替えだけなら“街づくり”まで発展しない。森さんが、南側の消防車も入れない、急勾配の細い道の地区を視野に入れたことで、案件はダイナミズムを得たんです」
 
 結果として、世界最大規模の地権者400件、借地人300件を巻きこむことになった。再び世論は「不可能」の大合唱。ところが、またしても時代が援護射撃する。建築士はいう。
 
「計画発表後、土地バブルが沸騰して地上げに対する批判が盛り上がります。地権者も、貪欲に見返りを期待するし、六本木ヒルズ開発の資金は、森ビルの収益を食い潰しかけた。しかし、90年代に入って土地神話が終焉します。地権者は一転して、土地を権利変換するほうが得策だと、再開発反対から賛成に回るんです」

 合意率は92%にまで達した。だが10人ほどの「反対の会」は頑なだった。

 当時この件を取材した記者が、久しぶりに取材ノートを開いてくれた。

「反対派から、森ビルのエゴのために巻き込まれるのはごめんだ! という声が出た時、森さんは激烈な態度でいい返しました」

 森氏は反論した。

「どっちがエゴですか! 90%以上の人たちが賛成しているうえ、私もご理解いただこうと何度も説明しています。自分たちのことしか考えないのは、あなたたちじゃないですか!」

 その場は凍てついたが、森氏の情熱が通じ、全員の賛成がとりつけられた。

※週刊ポスト2012年4月13日号

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