ライフ

〈股間巡礼〉の旅に出た東大教授 男性裸体彫刻の葛藤を語る

【書評】『股間若衆  男の裸は芸術か』/木下直之著/新潮社/1980円(税込)

 * * *
 書名に惹かれて書店で本を取り、目次を見て思わず含み笑いをした。まず、各章のタイトルが秀逸だ。〈股間若衆〉〈新股間若衆〉〈股間漏洩集〉〈股間巡礼〉わざわざ本歌をあげるのは野暮だろう。

 著者はサントリー学芸賞や芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している東大教授だが、洒脱な人のようだ。

 本書は、明治以降、日本の男性裸体彫刻が被ってきた受難の歴史を検証するというユニークなテーマの作品だ。著者は4年ほど前、東京の赤羽駅前に設置されている「未来への讃歌」(1993年作)という2人の若い男性の裸体彫刻に釘付けになった。

〈一瞬、我が目が曇ったのかと思った。あるべきものがあるようでないそれは、本当に不思議な股間だった〉。膨らんではいるのだが、そのものの形をしていないのである。

 以来、著者は〈股間巡礼〉の旅に出た。すると、丸かったり、切断された断面のようだったりといった〈曖昧模っ糊り〉、あるいは局部の代わりに葉っぱをつける、フンドシやパンツで隠すといった、様々な股間表現に出会った。

 100年ほど前、文部省(当時)主催の第2回展覧会が開かれた時、ある男性裸体彫刻に官憲からクレームがつき、局部を切断して展示されるという一件があった。今では考えられないが、いつ国家の基準や市民感情が豹変するかわからない。

 だから、独特の股間表現は〈長い歳月をかけて、日本の彫刻家が身につけた表現であり、智慧〉なのだ、と著者は書く。男性裸体彫刻は、表現方法について独特の葛藤を強いられてきたのである。

 本書の表紙は〈曖昧模っ糊り〉な作品の写真である。芸術と認めるならば、若い女性のレジ係に堂々と差し出そうではないか。

※SAPIO2012年5月5・16日号

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン