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1日7時間15分労働70歳定年の未来工業は欧州ではスタンダード

【書評】『日本一社員がしあわせな会社の ヘンな“きまり”』(山田昭男/ぱる出版/1575円)

【評者】森永卓郎(エコノミスト)

 * * *
 岐阜県に本社を置く未来工業。この会社にはヘンな決まりがある。全員正社員、一日の労働時間は7時間15分で残業なし、定年は70歳で、上司への報告連絡相談もなし。社員が自らの責任で考え、行動する。確かに日本の会社としては、かなり異質だ。しかし、私はこの本を何の違和感もなく、すっきり読むことができた。それは、この経営のやり方が欧州ではむしろスタンダードであり、理にかなっているからだ。

 欧州の会社は残業をしない。例えばフランスは法定労働時間が週35時間労働で、1日7時間しか働かない。時給差別が禁じられているから、日本のような低賃金パートタイマーは、そもそも存在しない。それでも、欧州の会社がやっていけるのは、高いものを作り、売っているからだ。

 未来工業も仕組みは同じだ。社長は、「安くていいもの」を作るという日本企業の考え方が間違っているという。安く売ろうとするから消耗戦になるので、商品は高く売らなければならない。ただし、そのためには当然他社との差別化が必要になる。

 その差別化を実現するために未来工業で実践されているのが、社員への権限委譲だ。上からあれやこれやと命じてばかりいたら、社員はすぐに考えなくなる。言われるままにしていれば安全だし、その方がずっと楽だからだ。しかし、それでは、新しい感性とかアイデアは生まれない。

 だから、未来工業では差別化で売上を伸ばし、経費を徹底的に削減して、付加価値を確保する。そして、それを思い切って社員に還元する。従業員を労働力とみなすのではなく、運命共同体の仲間として遇するのだ。

 ただ、こうした経営のやり方は、他の会社には、そう簡単に広がらないと思う。なぜなら、こうした経営をするためには、経営トップに大きな度量が必要だからだ。小者の経営者に限って、権力を行使することで自らの地位を守ろうとする。権限委譲を進めても社員から尊敬される社長は、そうはいないのだ。

※週刊ポスト2012年6月8日号

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