現在、学校を30日以上休んでいる不登校児は小・中学生合わせて約12万人。平成12年度頃から高止まりが続く。最も不登校が多い中学生では、38人に1人、つまりほぼクラスに一人は不登校という状態だ(昨年のデータ)。そんな不登校児の受け皿になっているのが民間の教育機関、フリースクールだ。
「設立当初はまだフリースクールについて理解がなかったので、子供が籍を置く学校の校長から『フリースクールに行けるなら、学校にも来られるはず』と、抗議の電話がきました。PTAが子供を無理に連れ返しに来たときは大ゲンカです(笑い)」
と話すのは、東京シューレ理事長の奥地圭子さん(71)。元・小学校教員だが、息子の不登校から社会の学校信仰に疑問を持ち、東京シューレを設立。以来日本のフリースクールを牽引してきた。
1992年、文部省からフリースクールに通っていても小・中学校を原籍校とすれば出席扱いになることが認められ、通学定期も発行できるようになったが、これらは奥地さんらの活動が実を結んだ結果だ。
王子、新宿、柏の3か所に拠点があり、取材をした王子には、初等部、中等部、高等部に約60名の生徒が在籍。年齢別に分かれてはいるが、異年齢で行なう活動も多い。
東京シューレでは、『子供が中心』が大前提。登下校の時間は自由で出席もとらない。行事や授業内容は、子供たちとスタッフがミーティングで決める。「哲学の授業」「ギター講座」など、自分がやりたいプログラムを提案し、一緒に行なう仲間を募って時間割に落とし込むことも可能だ。全体の時間割ができても、やりたいプログラムにだけ参加すればいいというシステムだ。
「自由とは、『自らに由る』と書きます。人生は自己決定の連続。自分で選ぶ能力を養うのです。必要ならスタッフも意見を述べますが、最終的には子供の決定を尊重します。『子供が自分勝手なことをしないのか?』と聞かれることがありますが、気持ちを汲めば、やみくもな行動はしません」
と語る奥地さんだが、一方で、長年悩み続けている問題があった。それは、フリースクールは学校外のため、卒業資格を出せないこと。また、公的支援が得られないため、学費の負担が大きいことだ。
しかし2000年代、小泉内閣時代に『教育特区制度』が浮上。この制度による2つの大きな規制緩和が、奥地さんの活動を後押しした。ひとつは学校設立に校地や校舎を持たなくてもいいこと。通常、東京都内で校地、校舎を所有する場合、約50億円はかかるといわれる。
もうひとつは、学習指導要領のカリキュラムの緩和である。
「これならフリースクールの教育理念を保ちつつ、卒業資格の出せる学校ができる」と確信した奥地さんは葛飾区の廃校を借りて、2007年に「東京シューレ葛飾中学校」を開校。受け入れは、不登校・不登校ぎみの生徒という条件付きだが「学校」として認可され、学費も都内の私立並み。
授業時間は規定より2割少なく各自のペースで登校。勉強は個別対応で、在宅の子供をサポートする「ホームスクール部門」も導入。多様なサポートで高校進学率は約8割となり、東京シューレは、フリースクール史に新しい歴史を刻んだ。
※週刊ポスト2012年11月23日号