芸能

『水どう』藤やん「大泉洋との関係」「番組への共感」を語る

「人は濃密な人間関係を欲している」と水どうDの藤村忠寿氏

 北海道発のローカルバラエティー番組、しかもレギュラー放送終了から10年も経つのに、いまなお番組関連グッズやDVDが売れに売れ、全国区の支持を得ている『水曜どうでしょう』。

 人気の秘密は、国内外問わず旅の途中で行われる様々な企画の面白さもさることながら、番組ディレクター陣が出演者の鈴井貴之・大泉洋というタレントを相手に、ときには腹を割って繰り広げる男同士の「友情」や「人間模様」が垣間見られることにある。

 職場でもプライベートでも対人関係が希薄になりつつあるいま――。『水どう』の生みの親である“藤やん”こと藤村忠寿氏(現・北海道テレビ放送エグゼクティブディレクター)が、人付き合いの極意を伝授する。

 * * *
 仕事で人に会うとき、たとえば相手方が4人いて、そのうちの2人とは顔見知りなんだけど、あとの2人は初対面ということがあります。その場合、顔見知りの人が「あ、ご紹介します。うちの新人で……」と言ってくれればいいんだけど、最近は、かしこまった紹介をすることなく、流れでなんとなーく話に突入してしまって、初めて会う2人はニコニコとその話を聞いてて、飲み会まで終わってしまった最後の最後に「ご挨拶がすっかり遅れてしまってすいません。○○と申します」なんつって、ようやく名刺交換するみたいな場面に出くわしたりします。

 あと、大学生なんかの若い世代の人たちが、初めて顔を合わすのにもかかわらず、いきなり「へぇー、そっちはそうなんだぁ」みたいに親しく会話を始めたりする場面もよく目にします。我々が若い頃には絶対に出来なかった実にフレンドリーな芸当です。

 これって、最近のコミュニケーションの取り方というか、人間関係の作り方だと思うんです。「あなたは誰ですか?」と、相手の素性を聞くことなく、ぼんやりとした形でコミュニケーションを取り始める。言うなれば「ふわーっとしたコミュニティー形成」というか、なるべく相手に踏み込まない。これはやはり「相手の個人情報にいきなり踏み入るのはよくない」という最近の社会の風潮から来るものだと思うんですよ。

 こういう「ふわーっとしたコミュニティー形成」は、ネットの世界では特に顕著で、これによって「知り合いの数」は昔よりも圧倒的に多いんだけど、「ふわーっとしてる」から、人間関係があまり濃密にはならない。だから、いざ人間関係が濃密になったときに、対処の仕方がわからず、些細なことで悩んでしまう人が多いような気がします。

『水曜どうでしょう』という番組は、タレントの大泉洋、鈴井貴之とディレクターである私と嬉野雅道の4人でやっています。男4人で世界中をあちこちロケで回ったりしてますから、関係はどうしても濃密になります。ケンカになることもしばしばです。そういう関係性を番組であからさまに出しているため、見ている人たちは「仲が良くてうらやましい」「楽しそう」と言います。でも、私たちの関係性は、単に「楽しい」というだけのものではありません。

 私たちの関係性は、たとえて言うなら「たまたま同じ船に乗って、大海に漕ぎ出してしまった乗組員」みたいなもんです。北海道のローカル局で人知れず番組を立ち上げて、小さな船を漕いでいたら、知らず知らずのうちに全国区という大きな海に出てしまった、という……。

 俳優として今や大人気の大泉洋は、この番組のことを「必要悪」と言います。もちろん誇張した表現ではありますが、「確かにその通り!」と私も思います。いくら売れようとも、『水曜どうでしょう』という船からは決して降りられないことを、彼は自覚しているわけです。

 私もディレクターとして、この番組だけではなく他にもやってみたいことがあります。でも、新しい船に乗り換えるということは、一方で、4人でこれまで漕いできた船を捨てることでもあります。

 嬉野さんは、いつだったか私にこう言いました。「おれらはね、お互いどんな嫌な思いをしても、どんな悔しい思いをしても、歯噛みしてでもこの船に乗り続けなきゃいけないんだよ。もう、それしかないんだよ」と。私はそれを聞いて、なんだか吹っ切れたような気がしました。「そうだな。自分にはこれしかないんだな」と。

 我々4人は、濃密な人間関係ではあるけれど、「親友」の関係ではありません。番組という「利害関係」で結ばれた4人だと思います。その利害関係を維持するためには、誰一人として船を漕ぐ力を緩めることができない、もう抜け出すことはできないという、十字架を背負った関係であると思うのです。でもその十字架を、もう重いとは思っていません。むしろ「自分は、これさえ背負っていけばいいのだ」と清々しい気持ちでさえあります。

 濃密な人間関係は、ある種の「縛り」のようなものを、お互いに背負わせることになります。その「縛り」は、時に耐え難いほどの苦痛を生み出すものではあるけれど、時に「これでいいんだ」と、すべてを軽くしてくれるような力を与えてくれるものだと私は思います。

「ふわーっとしたコミュニティー形成」は、個人に「縛り」を強要しません。だから、コミュニティーを抜けても誰も困ることはありません。また新たなコミュニティーを見つけて、ふわーっと入ればいいだけのことです。

 確かにラクではあるけれど、人間は決してそれだけでは生きていけない、どこかで濃密な人間関係を欲している、それがわかっているから、『水曜どうでしょう』という番組の「歯噛みしながらも同じ船に乗り続けている人たち」に、強い共感を覚えてしまうのだと思います。

【藤村忠寿/ふじむら・ただひさ】
1965年愛知県出身。90年に北海道テレビ放送(HTB)に入社後、編成業務やCM営業に携わり、1995年に本社制作部に異動。1996年チーフディレクターとして「水曜どうでしょう」を立ち上げ、出演者の鈴井貴之、大泉洋らとともに自身もナレーターとして出演。同番組は2002年にレギュラー放送を終了したが、その後も道内のみならず全国的に絶大な支持を集め、番組DVDシリーズは累計200万枚以上を売る大ヒット更新中。

関連記事

トピックス

アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
センバツでは“マダックス”も達成しているPL学園時代の桑田真澄(時事通信フォト)
《PL学園・桑田真澄》甲子園通算20勝の裏に隠れた偉業 特筆すべき球数の少なさ、“マダックス”達成の82球での完封劇も
週刊ポスト
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン