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65歳までの雇用延長制度 50歳代後半の首切り助長する恐れも

 厚生労働省は今年4月からの<65歳雇用延長制度>の義務化にあたって出した運用指針の中で次のような主旨の項目を入れた。

「60歳以上の雇用者の割合が低い企業は制度の見直しを検討すること」

 何のためか。政府は新制度の導入によって、雇用延長の対象になる前の50歳代後半のサラリーマンの大量解雇が行なわれる事態を想定しているからではないか。

 中堅メーカー営業職のAさんはいま、「59歳の選択」に迷っている。55歳で役職を離れ、現在の年収は約600万円、退職金は1500万円ほどになるが、会社から退職金2割増し」を条件に早期退職を勧められているからだ。

「60歳前に勧奨退職した方が、失業手当の金額が大きく、受給期間も長くなりますよ」――人事の担当者からはそう説明を受けた。

 新制度では、早期退職を断わって60歳まで勤めれば、希望者は65歳まで今の会社で再雇用される。今年夏に60歳を迎えるAさんはその対象だ。仮に、勧奨退職に応じれば再就職先は自分で探さなければならなくなるが、「2割増し」は魅力的にも見える。

 果たしてどちらを選ぶべきなのか──。

 こうした50歳代後半の社員への肩たたきがこれから増えると予想されている。政府はこの4月から年金の支給開始年齢を61歳に引き上げる(その後、段階的に65歳に引き上げ)。サラリーマンは60歳定年後に給料も年金もない「年金空白期間」が生じることから、高年齢者雇用安定法を改正して企業に対して希望する社員全員の65歳までの雇用継続を義務付けることになった。

 しかし、この事実上の「65歳定年制」導入はサラリーマンにとって決して朗報ではない。本誌はこれまで、企業側が雇用延長にあたって増大する人件費を抑制するために、65歳まで働いても60歳定年時代と生涯賃金が変わらないようにする賃金体系の見直しや、退職金の減額という賃下げ路線に拍車をかけている実態を報じた。

 今回は「延長義務付けの前にクビを切れ」という50歳代後半の退職攻防である。雇用延長問題に詳しいジャーナリストの溝上憲文氏が指摘する。

「改正高年齢者雇用安定法は、60歳以降の社員の雇用を保護するものですが、逆に59歳以前の社員は守られていない。そこで、企業は社員が60歳になると簡単にクビを切れなくなるため、その前の50歳代後半の社員を勧奨退職のターゲットにしています。これからその攻防が本格化するでしょう」

 サラリーマンにとってみれば、60歳以降の「年金空白」を補うはずの雇用延長制度が、逆に定年前のクビ切りを招き、「50歳代後半の収入空白期間」が生じるという事態がふりかかろうとしているのである。

※週刊ポスト2013年3月8日号

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