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残業代ゼロ法案 実現すれば日本の企業活力は著しく低下する

 真っ白なカブを持ち上げて「カブよ、上がれ」と唱えたパフォーマンスはアベノミクスに一層の勢いをつけた。しかし、その笑顔の裏で安倍晋三首相は、「クビ切り合法化法案」に続く新たな“サラリーマンいじめ”ともいうべき、「ホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法案=WE)」を検討し始めた。もしこれが実現すれば、残業に支えられてきた日本の企業活力は著しく低下することになる──。

 安倍政権が高支持率の裏で、サラリーマンを直撃するとんでもない法案を導入ようとしている。これぞ悪名高いWE制度」だ。

 これは一定収入以上のホワイトカラーを労働基準法の労働時間規制の対象から除外(エグゼンプション)し、管理職同様、何時間働いても会社は残業代を支払わなくていいようにするものだ。ひと言でいえば、残業代ゼロ制度である。

 サラリーマンにとって残業代は「臨時収入」ではなく給料の一部だ。「残業代ゼロ」になると生活設計が大きく狂わされてしまう。

 自動車部品メーカーの管理部門勤務のAさん(30歳代後半)が真っ先に思い出すのは、リーマンショック後の悪夢だ。上司から定時になるとパソコンの電源を落として一斉帰宅するようにいわれ、それまで最低でも月40時間ほどあった残業がほぼゼロになった。多くの企業で担当者がパソコンの電源をチェックして回る“残業パトロール”が広がった時期である。

「売り上げは大きく落ち込みましたが、管理部門の仕事はそう減るわけではない。しかし、パソコンの電源記録が残ると残業と見なされるので、積み残しの仕事は自宅でサービス残業することになった。もちろん、残業代は出ない。月給は手取りで10万円以上減りました」

 Aさんは2歳の娘を保育所に預けて妻がパートに出ることを検討したが、職は簡単には見つからず、むしろ保育料を考えると家計の足しにならないことがわかった。当分、レジャーも外食も控えて生活費を切り詰めた。

「一番困ったのは住宅ローンです。残業代があるという前提でローンを組んでいたから、支払いがいっぺんに苦しくなった。貯金を100万円以上取り崩したが、同僚には銀行に返済繰り延べを申し込んで急場をしのいだ人もいます」(Aさん)

 日本の企業はようやくリーマンショックと東日本大震災のダメージから回復し、製造業の社員の残業時間はリーマンショック以前の水準の9割まで戻りつつある。

 連合総研が年に2回実施している調査(勤労者短観)によると、調査対象期間に残業した男性正社員の平均残業時間は月43時間。とくに子育て世代のサラリーマンの残業が多く、30代の約2割は月80時間以上も残業している(厚労省の毎月勤労統計調査)。

 大手電機メーカー勤務のBさん(30歳)は、帰りが遅いことで新婚の妻がいつ“実家に帰る”と言い出すかと不安を感じながらも毎日23時過ぎまで残業を続けている。

「残業は月50時間までしか付きませんが、それでも手取り収入(35万円)の3割以上を残業代が占めている。子供もほしいし、将来の生活を考えると給料ダウン覚悟で早く帰宅するわけにはいかない」

※週刊ポスト2013年4月12日号

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