去る5月10日、日本と台湾の間で4月に締結された「日台漁業協定」が発効した。同協定は尖閣諸島周辺に設定した海域で台湾漁船の漁を認めるもので、これによって台湾漁船は日本のEEZ(排他的経済水域)内の好漁場で操業できるようになった。
だが、この海域でマグロ漁をする八重山諸島の漁師たちにとって、協定締結は寝耳に水だった。そのため、「地元への説明もないまま、いきなり漁場を差し出せと押しつけられた。我々の生活権を頭越しに奪おうとしている」(石垣島のマグロ漁師)と猛反発が巻き起こったのだ。
協定海域は八重山漁港のマグロ水揚げの30%以上を占める。それを「開放」するのだから、地元の漁師たちが怒るのも無理はない。しかも、この海域には台湾漁船との間で長い確執があった。
「約10年前までは台湾漁船が日常的にこのエリアに侵入し、我々の延縄(はえなわ)を切断したり、ブイ(浮き)を捨てたりするという問題が絶えなかった。だが、最近では海保と水産庁が監視を強化してくれるようになったので、安心して漁ができるようになった。協定が発効したら、また10年前の状態に戻ってしまう。これでは我々に漁をやめろといっているようなものだ」(同前)
杞憂ではなかった。協定発効前の5月上旬、石垣のマグロ漁船に同乗して協定海域を取材した報道写真家の山本皓一氏が語る。
「レーダー上には台湾漁船が6マイル(約10キロメートル)四方に8隻確認され、約2時間で5隻の台湾漁船に遭遇しました。約80キロメートルもの長さの延縄を引き上げている最中で、声をかけても全く無反応。協定発効前であることを承知の上で違法操業していた。
台湾漁船はいずれも10~30トンクラスで、それに対する石垣の漁船は5トン前後のものばかり。延縄の長さも日本の漁船は半分程度です。しかも石垣の漁船が10数隻であるのに対し、台湾のマグロ漁船は800隻といわれる。そのすべてが操業するわけではないにしても、サイズも漁法も違う船が同じ漁場で操業すれば、“弱者”の日本漁船に入り込む余地はない。実際、協定発効の10日過ぎには100隻を超える台湾漁船が出漁し、日本の漁船は虚しく引き揚げるしかなかった」
※週刊ポスト2013年5月31日号