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武田鉄矢 憎み続けた兄の「がん死」と「確執」を告白する

 新著『西の窓辺へお行きなさい「折り返す」という技術』(小学館)を上梓した武田鉄矢(64才)。著書では、2011年3月の東日本大震災、その半年後の心臓病手術を乗り越えた彼が自らの体験や出会った人たちから学び、たどりついた“人生の降り方”が紹介されている。そして、そのなかで武田は初めて亡き実兄(享年68)との確執を明かしている。

 武田は1949年、5人きょうだいの次男として生まれた。いちばん上の長男は12才年上で、その間に姉が3人。末っ子の武田にとって、兄は「他人」のような存在だった。

「年の差は圧倒的でした。だから、ぼくは兄貴から一歩引いて、“そうですか”とか“よかったです”とか常に尊敬語を使っていました。一緒に遊んだという思い出はひとつもありません」(武田、以下「」内同)

 兄は早稲田大学卒業後、地元の広告代理店に就職、周りが羨むようなエリートコースを歩んでいった。

「母親は兄を誇りに思っていて、いつも兄貴ばかりかわいがっていて…ぼくは自分のことも見てほしいって思ってました」

 その後、武田は地元の国立大の教育学部を休学して、フォークシンガーを目指し、上京。1973年、自身が作詞した『母に捧げるバラード』が大ヒットした。これをきっかけに、兄弟の立場が逆転し始めた。兄は、弟に負けまいと会社を辞めて独立。だが、事業はことごとく失敗し、多額の借金を抱えてしまった。武田は複雑な表情を浮かべて、当時を振り返る。

「もともと頭のいい男だったし、ぼくなんかよりはるかに世渡りがうまかったから、うまくやるんじゃないかという思いはありました。でも、もろかったよね…」

 エリートだった兄の転落は止まらなかった。武田の名前を勝手に保証人にしてお金を借りたり、実家を勝手に借金の担保にしたりと武田家に数数のトラブルを巻き起こした。

 結局、母・イクさん(享年78)が兄の面倒を見ることで落ち着いた。兄は、“武田鉄矢の母”として一躍有名人となり、テレビ出演や講演に忙しいイクさんのマネジャー代わりとなって生計を立てた。

 しばらくは平穏な日々が続いたが、1998年秋、イクさんが肺動脈血栓のため他界すると再び兄の荒れた生活が始まった。兄は、武田家の財産は自分が相続するものと思っていたが、イクさんは実家の所有権を娘たちに譲っていたのだ。

<よほど腹立たしかったようです。母をだまして相続手続きをしたと妄想まじりで姉たちを罵っていました>

 身内と遺産問題で揉めてマネジャーの仕事も失った兄は荒み、昼間から酒を飲む毎日。ついには体も壊し、イクさんの三回忌を前に食道がんを患った。手術は成功したものの、酒の量はますます増えていく。しかし、そんな兄のプライドは変わらず高いままだったという。

「周りには“鉄矢っていう名前はおれがつけた”とか“あいつはおれのおかげで有名になれた”とか言ってたそうです」

 どちらからも連絡を取らなくなり、ふたりは疎遠になる。そして5年後の2005年冬、武田のもとに突然、義姉から電話が入り、涙ながらにこう訴えられた。

「一度でいいから、最後くらい仲のいい兄弟でいてください…」

 末期がんだった──武田は兄との別れを直感したという。翌日、武田は博多に向かい、兄を訪ねた。病院のベッドに横たわっていた兄は、かつての面影がないほどにやせ細っていた。明らかに命が長くないとわかったが、嬉しそうに武田を迎え入れると元気に振る舞った。

 その2か月後、兄は逝った。あれから8年。60才を過ぎた武田は、兄への感謝の気持ちを持っているという。

「ぼくは兄貴にコンプレックスを持っていたんです。母からはかわいがられていたし、優等生だったし…兄貴を憎み続けてもいた。でも、そのコンプレックスが自分を成長させて、ここまで登ることができたんだと思えるようになったんです。兄貴が、今のぼくをつくってくれたんだってね」

※女性セブン2013年7月11日号

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